大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

かす(役立たず)

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僕:馬鹿々々しい事をまじめに議論しようという事で、今夜は「かす」。飛騨のアクセントは東京式で頭高。
君:良い所を取り去った残りかすという意味の敷衍で、役立たずの人をののしって言う場合ね。資料はあったの?
僕:ああ、土田吉左衛門「ひだの言葉」には、かす、かすこけ、かすたーけ、かすたけ、かすたれ、かすめ。東京堂出版・罵詈雑言辞典には岐阜県のコーナーに更に、どんべかす、の記載があったが、美濃の言葉だろうか。飛騨でもビリの事を「どべ」と言う。
君:江戸語のような感じね。
僕:おっとどっこい。逆だ。上方語だよ。天保12年・新撰大阪詞大全。かす客(ぎゃく)、かす公家、かす侍、かす禰宜(ねぎ、神主の事)、かす売女(ばいた)、かす奴(やっこ)、かす山伏、かす野郎、かす童(わっぱ)。
君:ありとあらゆる職業ね。畿内方言とくれば日葡ね。
僕:そう。いい感してるね。Casu があるが、説明としては、葡萄の搾りかすのように物を絞った後に残るもの、または日本の酒や油などに残る滓、また小麦などの糠。
君:つまりは食用のものに限られ、悪い意味はないので、敬意逓減の法則で、江戸時代に卑罵語になったというわけね。
僕:そのようだ。
君:飛騨にはどのように伝わったのかしら。
僕:「かす」は和語。気になる語源だが、酒のもろみを漉した残渣。金光明最勝王経音義(仏典のひとつ)の記載に加須がある。粕や糟と混同されて現代に至っている。「かす」はもう全国各地の方言と言ってもよく、大阪の専売特許じゃないね。角川古語大辞典には宇津保、平安中期、の文例があるし、全国各地で様々な音韻変化に加え意味変化も生じているので、飛騨方言の「かす(役立たず)」も自然発生的でしょう。
君:日本人なら発想は皆様が同じ、という事ね。
僕:その通り。それでも小学館日本方言大辞典によれば岩手県江差郡と気仙沼では「すてきなさま」の意味の文例があるようだ。日葡辞書と東京堂出版近世上方語辞典、この二つの書のおかげで、大阪では江戸時代に卑罵語に転じた事もわかった。飛騨方言ではいつ転じたのか、不明と言わざるを得ない
君:「すてきなさま」とは、素敵な粕漬を連想しちゃうわ。
僕:まあ例外的な用法ですね。その他の地方は例外なく人を罵る悪い意味で用いられている。
君:かす管理人、かす方言愛好家、かす男、かす夫、かす親、かす高校先輩、他にないかしら。
僕:おいおい、若しかしてカスお友達さん、挑発かい?
君:単なる言葉遊びよ。被害妄想ね。ほほほ

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