大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

幻の女言葉はどこへ消えたか?女子第一人称

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私:君は生まれも育ちも名古屋だから名古屋方言で知らない事はないだろう。名古屋では、女性が、おれ、を使うかい?
妻:使わないわ。明日からおれもそうしようかな。
私:ははは、その調子。さて、生まれも育ちも飛騨で戦前生まれのおふくろが、おれ、を使う事に気づいているかい?
妻:勿論よ。お母様がお使いなのは、おれ、じゃなくて、おり、でしょ。
私:なんだ、聞いてたのか。肥えているのは腹だけじゃなく耳だったな。
妻:お言葉ね。薄い毛だけど、脳が詰まっている。えらいわあ。
私:さて、おふくろが、おり、を使う場合だがどんな相手に対して話す言葉なのかな?
妻:さあ、そこまではよくはわからないわ。ではどうぞ。
私:では答え。相手はすべて。誰に対しても用いる。夫にも、息子の僕にも、他人様にも。そしてこれには理由がある。つまりは第二問だ。・・・ヒントは敬語だよ。
妻:敬語?・・・わかったわ。謙譲語ね。語源は、といえば・・おのれ、という事よね。誰彼に対してもへりくだる言葉なのよね。
私:その通り。お忙しい読者のために結論を急ごう。江戸時代は、中央では男女の別なく謙譲語として用いられていた。なぜか、飛騨にも伝わった。今もおふくろが使う。謙譲語しか使わない尊敬すべき人だ。
妻:つまりは、中央では明治あたりに女性はピタリと使うのをやめ、また、男性もぶっきらぼう表現で、おれ、というようになったのね。
私:お見通しだね。中央では言葉の値打ちがさがり、とても女が使える言葉ではなくなってしまった。明治の事だろう。ところが、飛騨方言の、おり、の値打ちだが江戸時代の輝きを保っている。
妻:いつもながらあなたの話はわかりやすいけれど、表題の説明がまだないわ。
私:待ってたぞ、その言葉。実は戦後生まれの飛騨の女性は決して、おり、は使わない。戦後の学校教育、いやマスコミかな、これらの影響だろうね。幻の女言葉はどこへ消えたか?すべて、わたし、に統一された。
妻:飛騨の男性は、これからもずうっと、おり、を使うわね。マッチョマンには、おり、がお似合いですもの。おりゃーあ。
私:おっと、今日は一本とられたわよ、ほほほ。
妻:言葉あそびって面白いね、ははは。

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