大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 方言学< |
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左七:初めまして、T絵様、三週間前、2019年12月にこのサイトを再開したらあなたは早速にメールをくださいました。この間の訪問者数は500人以上、反響の大きさに驚いて感激しています。 T絵:初めまして、実は2008年に更新をお止めになる前に訪問していました。再開してくださってうれしいです。 左七:今までメールってなかったんですよ、実は貴方を含めて三通だけ。お一人は英国在住で飛騨古川出身のお方から、もう一通は天領飛騨の最後の郡代・新見内膳の末裔のお方から取り上げてくださった事に対して感謝のメールをいただきました。司馬遼太郎の、街道を行く、の逸話に触発されて書いたような覚えがあります。・・おっと脱線、本題にしましょう。 T絵:題名が素敵、わくわくします。何をお話しくださるのですか。 左七:2004-8と、足掛け五年ほどアマチュア方言愛好家をやって来て、私なりにこの学問のやり方が確立してきました。そんな話です。 T絵:では、早速にどうぞ。 左七:飛騨方言を理解するのに語彙(ごい)研究は欠かせません。そして最も重要なのが辞典です。座右の書としては五つ。絶対に手放せない辞典です。逆にこの五つさえ鞄に詰めれば書斎で数百冊かな、方言学の書類に目を通さなくとも旅先の温泉で原稿が書けます。 T絵:よほど重要な辞典という事ですね。でも五冊ならなんとか鞄に入る数でしょうから、よかったですね。なんという辞書ですか。 左七:はい、入ります。早速。★三省堂 現代語から古語を引く辞典★古語辞典ひとつ、どの出版社でも可★邦訳日葡辞書 岩波書店★言海 大槻文彦 ちくま学芸文庫★飛騨のことば 土田吉左衛門 残念ながら、飛騨のことば、は絶版です。 T絵:それぞれの辞書はどのような目的でお使いですか。 左七:はい、飛騨方言とて万葉時代から話されていた言葉ですから 高校の古典、日本史などの基礎知識の上に華麗に花咲く世界というわけで、飛騨方言の語彙がこの一千数百年でどのように変遷したかを考えるという歴史ロマンスの世界の解明に必要なのです。 T絵:方言がロマンス、とても共感します。でも、歴史ですか。 左七:そやさ、歴史なんやさ。では第二段階のお話を。飛騨方言はじめ、日本語は古代から常に変化しているので、昔はなんて言ってたのかな、位から始めましょう。例えば、飢える、という現代語ですが、昔の言葉では何というのでしょう。 T絵:わかりません。 左七:私もわかりません。だからまず、現代語から古語を引く辞典、を診ます。失礼、職業柄、変な変換になりました。 見ます。1.うう(飢) 2.かつゑる 3.つかる(疲)、以上、三つの動詞です。 T絵:現代の飛騨では、うえる、かつれる、つかれる、ですね。 左七:ふふふ。かつれる、ですね。これについてはもう少しあとで説明しましょう。 T絵:飛騨では古代から今までこの三つの動詞が変化しつつも生きてきた、という事ですか。かつゑる、は現代語ではありませんものね。 左七:そうです。続いてどの出版社でも可な古語辞典に参りましょう。1.うう、という言葉は万葉集にあります。2.かつゑる、三河物語、つまり江戸時代3.つからかす、平家物語、平安時代つまりは、うう・つかる、は古くは平安、かつゑる、は近世の言葉である事が判明しちゃいました。 T絵:ほんと、面白いですね。 左七:そうなんやさ。ここで日葡(にっぽ)辞書のお出ましです。 T絵:日葡とはなんですか。 左七:安土桃山時代にポルトガルの宣教師が畿内を中心に宣教活動をしました。彼らは語学が堪能で瞬く間に日本語を学び、そして民に聖書の教えを説いた。葡辞書というものがあって、当時のポルトガル人によるポルトガル人のための日本語辞書、それを邦訳したのが日葡辞書です。ふふっ、ありました。 Catu,ye,uru,eta 実は江戸時代より前、安土桃山時代には、かつゑる、があった事が丸わかりですね。つまりは、かつゑる、は鎌倉から安土桃山ころに出来た言葉でしょう。 T絵:だんだんわかってきました。出版された時代の違う複数の辞書から特定の単語を抜き出し、時系列にお並べなさったのね。残りの二つの辞書の年代は? 左七:ははは、いいぞ、そうこなくっちゃね。言海、は明治24年初版、当時の日本語を記述したものですし、飛騨のことば、は昭和34年発刊です。昭和の高山の言葉です。 T絵:では、結論をどうぞ。 左七:待ってました、そのお言葉。実は、飛騨のことば、昭和34年、まで、かつえる、は生きていました。ところであなたは、かつれる、とおっしゃいませんでしたか。 T絵:ええ、かつえる、なんて言いません。かつれる、と言いますけど。 左七:だから、かつれる、って平成の飛騨方言なんですよ。土田辞書から明らかな事は、昭和の高山市ではかつえる、と発音していたという事。かつれる、じゃなかったわけ。 T絵:えっ、そうなんてすか。というか、本に書いてあるのね。なるほど説得力ありますね。 左七:さらには一言、平成にどなたかが、やつれる、と混同して、かつれる、って言いだしたんでしょうね。そしてひろまった。 T絵:うーん、お見事ね、納得します。 |
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