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gooランキング「方言で告白されたい!」

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私:ネットサーフィンはどなたもおやりだろうが、私の場合、方言に関する資料があると思わず考え込んでしまう。例えばあなたが好きやけん。可愛すぎて胸キュン「告白されたい方言」ランキング
君:いずれリンク切れ。簡単に要約しておいたほうがいいわよ。
私:うん。gooランキングなるものだが、ネット投票を自由形式で、という運営のようで、NTTコムリサーチ(NTTコム・オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社)、リサーチプラス(アイブリッジ株式会社)が下請け。お遊び的なサイトにつき学問的価値は無いと言い切るには惜しい、社会の窓的な情報が満載のサイトのようだ。
君:結論は?
私:第十位青森県から第一位福岡県までの紹介。各県における告白の際の決め台詞は何か、という命題だが、残念ながら岐阜県はランクインしていない。それに方言は地方別の区画であるが、一律に県単位の集計となっている事は方言区画論を無視した手法。方法論そのものが間違っていると言えなくもない。
君:まあ、そんなに目クジラを立てずに。第一位だけをご紹介なさったらどうかしら。
私:そうだね。全国一位の福岡県だが、「好きっちゃ」「好いとうよ」「好きやけん」が決め台詞らしい。
君:今日、貴方がお書きしたい事はそういう事ではないのよね。
私:勿論。君ねえ、わかっててわざわざ僕に聞きかけるとは、嫌いだな。そういうのは飛騨方言ではね、・・。
君:ごめんなさいね。胸キュンの質問じゃなくて、私って質問の順番を間違えたのね。つまり10番までのランキングをざっと読んであなたなりに気づいた事があるのよね。
私:ああ勿論。胸キュンの言葉の核心とも言える語彙が「好き」の二文字という事。「愛している」とか「惚れている」という言葉は皆無だ。とにかく男女の間で胸キュンを伝えたければ好きの二文字だけでいい、という結論になる。
君:それは当たり前すぎる結論とも言えるわね。もう一、二点ほど気づいた事があるでしょう。
私:おっ、なかなか鋭いね。その通り。各県とも定番の言い方のパターンは決まっていて、ひとつには断定の言い方、もうひとつは順接確定ないし順接条件だ。
君:心理学的にはもわかり易いわね。断定でなくでは駄目、とにかくはっきりと言い切る形が好まれるという事で、アンケート結果は男性から女性に対してのみならず、女性が男性に投げかける場合も含まれているという意味かしら。
私:残念ながら、そこまでの記載が無い。少し残念。
君:順接条件も、これほどわかり易い心理学も無いわね。好きなのでお付き合いください、ないし、結婚してください、という言葉が好まれるという意味ね。
私:そうだ。これも当たり前すぎる結果だね。「好きっちゃ」「好いとうよ」は断定で、「好きやけん」は順接条件だ。
君:方言文末詞「ちゃ」の語源は連語「であり」ね。「好いとうよ」は「すいて・おる・よ」だから感動・詠嘆の間投助詞「よ」が決め台詞という事ね。「けん」の語源は接続助詞「からに」が語源だったわね。
私:その通り。「からに」は古語における順接の代表的言い回し。
君:断定表現は他にもあるわね。用言終止形はすべからく断定の意味があるし、意志の助動詞「む・むず・べし」、指定の助動詞「なり・ぢゃ・だ・たり」が決め台詞という訳なんでしょ。
私:その通り。話は簡単だ。問題をややこしくするのが順接条件のほうだな。
君:ややこしくなんかはないわよ。逆接仮定も、ましてや逆接確定も猶更の事、とにかく逆接は禁句という意味でしょ。今は一緒に暮らせないけれど(逆接確定)、いずれまた(逆接仮定)、これは流石に愛の告白とは言わないわ。
私:そうだね。順接確定条件じゃなくちゃ話にならないが、これは愛の告白の決め台詞の前提条件だ。と言いたいところだが、実は順接に続くものは確定の独壇場とは限らない。順接に続いて推量・依頼・希望・勧め・意志などの内容になる事もある。
君:ほほほ、でも敢えて順接条件に続く内容を語らない、という戦法もあるのじゃないかしら。
私:そうだね。高等テクニックというか、例えば男が「好きだから」と言うだけで心が通じ合う場合、女が「続きは言わなくてもわかるわ。いいわよ、結婚しましょう。」と言うのを期待するとか。
君:でもそれは危険な賭けね。
私:その通り。だから一般的には順接に続く内容を入れるのが、相手にはわかり易い表現という事で、一般的には好まれる。
君:ほほほ、更に一般論としては順接+依頼・希望・意志という事になるわね。順接+確定・推量・意志は有り得ない表現だわ。
私:社会的常識としてはその通りだ。順接「好きなので」+確定「結婚指輪を買ってしまった」・推量「僕たちは結婚するのだろう」・意志「幸せな家庭を築くつもりだ」は有り得ない。日本語として失格レベル。
君:つまらないお話ね。平凡すぎて。
私:じゃあ、こんな話題はどうだ。順接と言えば二種類の接続助詞に限られる。国語の問題。
君:何を言ってるの。「から」「ので」この二種類に決まっているじゃないの。
私:うん、これは簡単な質問だ。では愛の告白は「から」がいいか、「ので」がいいか、これはどう思う?
君:どちらとも言えない、では答えじゃないわね。・・ほほほ、国語問題の有難いところ、答えは全て本文に書かれている。「すきやけん」、つまりは「好きだから」と言ったほうがいいのよ。「好きなので」でもいけなくも無いけれど、「好きだから」が好ましい表現である何かの理由があるというわけね。
私:その通り。「から・ので」、厳密な使い分けは無さそう、ともに順接条件の接続助詞だが、「から」の場合は順接条件を陳述するだけの機能に特化した助詞であり、「ので」の場合は順接条件に続く結果を直ぐに示さないと日本語として不自然という側面がある。例えば「雨だから」「あらほんと。傘が要るわね」は日本語として成立。ところが「雨なので」「えっ、雨なので?どうかしたの、ああ、雨なので傘が要るわね」という会話は成立するし、「雨なので傘がいる」「そうね」の会話も成立。
君:つまりは「ので」の場合は「条件+結果」を相手に承認欲求する言い方なのに対して、「から」の場合は「条件」を相手に示して、相手に結果を言わせるというような機能がある、という事かしら。
私:極論するとそのような事になる(森田良行著・助詞・助動詞の辞典、東京堂出版)。「から」の場合は条件と結果が意味的に切り離されて成立している。従って話者の交替が可能。その一方、「ので」の場合は条件+結果を話し手が提示する。君が国語教師なので遠慮していたが。
君:ほほほ、何よその言い方。「国語教師なので遠慮」、本当に失礼極まりないわね。そんな告白って無いわよ。逆効果ね。いっぺんにあなたが嫌いになったわ。というのは冗談、ほほほ。つまりは愛の告白は「から」を使うのが無難という事ね。
私:うん、そうだから。
君:「僕の気持ちをわかってくれ」ですって。夫を愛しているので無理よ。ごめんなさいね。ほほほ

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