大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

ヴォイス voice

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私:英々辞典に詳しいが、 voice と言う言葉は実に多様な意味を持つ。このサイトは文学ではなく、方言学(国文法、文語文法)、言語学、音韻学、音調学を対象として運営してきたので、文法や言語学の立場から voice を論じてみたい。
君:つまりは国文法で言うヴォイスとは「態」の和訳が与えられているし、言語学では有声音 voiced sound ・無声音 voiceless sound の学術語なのよね。
私:そう。文法における「態」も音調学における有声音・無声音も、共にヴォイスつまり同音同綴り語だが、全く別の概念つまり異義語。
君:ではまず、「態」についてどうぞ。
私:うん。具体例では、例えば能動態・受動態と言えば、中学生でも判ると思うが active voice vs. passive voice という事だ。つまりは「態」とは、主語たる関与者と述語の動きとの意味的関係を示す動詞の文法的カテゴリー。能動・受動の「態」以外にも、使役の関係、可能表現、願望表現、動詞の自他対応などが「態」というわけだね。
君:つまりは動詞の存在意義そのものを示すのだけれど、動詞に続く名詞には奪格、与格等、格 case があるから、動詞に「態」があり続く名詞に「格」がある、「態と格」は不可分の関係なのよね。
私:その通り。
君:更には動詞に時相 tense 、つまり、過去・現在・未来があるわ。
私:そう、態や時相のような動詞の機能の多面性を動詞のモダリティというような事もあるな。うん
君:では有声音・無声音について簡単にどうぞ。
私:有声音とは声帯が震えて発する音で日本語の母音(あいうえお)は全て有声音。日本語の子音は有声音と無声音に分かれる。有声音は共鳴音ともいうね。
君:母音は全て有声音、子音は有声と無声に分かれる。何か理由がありそうね。
私:理由は簡単だ。声の道(声道)が広く保たれる共鳴音は有声音、逆に声道の狭い阻害音は有声・無声の対立が生ずるという事。
君:うーん、もっとわかり易く説明できないかしら。
私:そうだね。じゃあ、これならどうだ。共鳴音は声帯が働かないと声にはならないのです。
君:うーん、だめ。もっとわかり易くお願いね。
私:ええっ、手厳しいな。よし、とてもわかり易く説明しよう。そもそもが声を出すためには声道の少なくとも一か所にとても狭いところ、つまりは息が空気を震わす場所が必要です。そして、声門の動きだけで声を出そうというのが有声音です。そして声門の上部に狭いところを作って声門は開いた状態で音を出すのが無声音です。ところが無声音の状態にしておいて声門を狭くする、つまりは動かす事もできます。平たく言えば、声門の上部と声門、この二か所を狭くして声を出すのが無声音の有声音化でえす。
君:ええ、その通りね。それでも無声音の有声音化については具体例を出すべきよ。
私:はいはい。これは「かさたは」が「がざだば」になる事だ。つまりは濁音は有声音。濁音は声帯を使わないと発する事が出来ない。
君:そうよね。そろそろ、母音は有声音です、というお言葉の訂正をお願いね。
私:ほいきた。簡単な事だ。全ての母音は有声音だが、有声音すべてが母音という意味ではない。有声音とは n / m / y / r / w の子音と母音の全てだ。日本語の場合、という枕詞が要るが。
君:また全ての子音が無声音ではないのよね。
私:おいおい、「かさたはた」で説明済みだよ。
君:ほほほ、そうね。ところで小学生がこんな質問をしたらどうかしら。「た」や「か」には濁点がつくのに、どうして「あいうえお」や「まる」や「なら」には濁点がつかないのですか?
私:うん、それは簡単。濁点をつけるという事は無声音を有声音にする事だけれど、「あいうえお・まる・なら」は元々が有声音なので、有声音を更に有声音にする事はできないのです。・・ふふふ、どんなもんだい。
君:でも小学生なら、こう切り返すわよ。では、そもそもが有声音である「あいうえお・まる・なら」にどうして濁点をつけないのですか?
私:うーん、そうきたか。では、こう答えよう。有声音たる「あいうえお・まる・なら」には、それに対応する無声音が無いのです。だから、いちいち濁点を付ける事は面倒くさいので、無声音・有声音の対がない有声音は濁点は書かないでおこう、と偉いお方がお決めになったのです。
君:ほほほ、そんなところかしらね。でも賢い小学生はいきなりこういうわよ。結局のところ、無声音・有声音の対があるのはカ行・サ行・タ行・バ行の四つだけなんですね。
私:だろうな。どこまでも根性がひん曲がった小学生だ。
君:でも、小学生の手は緩まないわよ。多分、こう質問するわよ。どうして「う」に濁点がないのに、「ヴォイス」に濁点があるのですか?ほほほ
私:うーん、やられたな。でも僕はすかさずこう言うね。実は「う」の濁点ではなく v の濁点です。それは中学生になると習います。ぶっ、これでいいだろ。どんなもんだい。
君:でも、小学生の追及の手は緩まないわよ。「ブイシックス」は「ふいしっくす」と無声化できちゃうのはどうしてですか?ほほほ
私:それはだな・・・こう答えよう。ブイシックスの綴りは bui six です。これは無声化して hui six になります。これは実は英語ではありません。日本語です。 V six vs. fui six これは中学生になると英語で習います。つまりは小学生はお預けです。ぶっ
君:わかるわ、その気持ち。表記は「ボイス」ではダメなのよね。有声が「ボイス」の論理では無声が「ホイス」になっちゃうのよね。ほほほ

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