大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 方言学

南北対立

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私:今日はまた久しぶりに気づかない方言を発見してしまった。
君:つまりは共通語・標準語だと思っていた言葉が実は飛騨方言だったという事ね。
私:ああ。
君:でも今日は「南北対立」の表題だわよ。これって「東西対立」に対する言葉なんでしょ。
私:その通り。書かずもがな。東京と京阪神での方言対立が「東西対立」であるのに対して、日本の南北での対立が「南北対立」。提唱者は阿部清哉先生。2014年か。最近だね。言ったもの勝ちだな。Publish or perish, 学問の掟だ。僕のようなアマチュアは気が楽だ。
君:既出の言葉で日本海型方言分布「のりつけほーせ」「ゆきやけ」があったわね。つまりは南北対立という事なんでしょ?
私:正にその通り。方言学にもうひとつ同じ意味の言い方があって「気候線」だ。これも本州の大分水嶺と同じ意味と考えてもいい。日本は方言境界線「気候線」によって南北に分かれ、北は大雑把に日本海側、南は大雑把に太平洋側といういうわけ。
君:あなたの気づかない方言とは?
私:水が凍る事を飛騨方言で「しみる凍」というが、南北対立の典型語らしい。南では「こおる凍」だが、北では「しみる凍」。国研の方言地図がある。ここ
君:例文を示してみてね。
私:飛騨方言では「外の水道がしみてまった」と言えば、屋外の水道が凍り付いてしまって水が出なくなくなる事。最悪の場合には破裂する。従って「しみるようさりは水道の水を出しっぱなしにせにゃだしかん」という事になるのだが、この場合の「しみるようさり」とは「こごえる夜」「いてつく夜」という意味で、「水道が既に凍ってしまった夜」という意味では無い。また、「あーれ、しみるでこわいなあ」この場合は「なんという寒さでしょう、困りました」という意味で、自身が感ずる体感が耐え難いほど寒く感ずる、という意味で、体が凍るわけではない。飛騨方言では「こおる」も用いられるが、この場合は文字通り「結氷する」という意味に限定されるだろう。
君:つまりは、あなたはついさきほどまで南の地方の方々も結氷するという意味で「しみる」を使っているのであろうと考えていたのに、実は南の地方では「しむ凍」自マ上二が死語になっていて、つまりは使われていない、という事に気付いたのね。
私:その通り。そして、もうひとつ重要な点がある。最重要な点と言ってもいいかな。地図を見れば明らかだ。ははは
君:何よ、その言い方。地図から明らかな事は南には東京も京阪神も含まれるという事よ。最重要と言えば、南には東京が含まれるという事よね。
私:その通り。つまりは南北対立の場合は北は「気づかない方言」、南は「共通語・標準語」という構図が生まれる。がはは
君:気づかないのはあなただけ。北は「気づかない方言」というのは言いすぎよ。あなたは古典かぶれで「しむ凍」自マ上二の言ばかりが頭にあるから「気づかない方言」なのよ。
私:確かにそうだね。「東京じゃ、こおる、というけど、俺たちは、しみる、と言うよね」という気持ちが有れば、それは「方言意識」そのもの。
君:大分水嶺は青森県から山口県まで延々と続いているけれど、国研地図をみると、気候線はなんたが岐阜県辺りで途絶えている感じだわよ。
私:ああ、そんな感じだね。気候線と大分水嶺は本州の東側ではほぼ一致する、とでも書き直しておこう。ははは
君:北海道だけが「しばれる」なのが少し違和感を感じるわ。
私:いや、「しばれる」は「しむ」自マ上二の系統だ。「しみはれる」から来ている。転じて「こおる」の意味になったようだね。僕がむしろ絶句するのは沖縄からの回答があった事だ。暑いからなあ、生活語と言えば生活語、冷蔵庫で製氷する事を意味しているのかね。冬ですら暖かい地方だと思うのだけど。
君:中央下は沖縄じゃないわ。宮古島と石垣島ね。両島とも流石に無回答だわ。冷蔵庫の話は無かったようね。ほほほ

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