大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

中国語でお母さんが馬を叱る時

戻る

私:飛騨方言の話者である僕たちが一番に無関心であるのがアクセントという事なのかもしれないね。
君:飛騨方言は東京式アクセントなので、また物心ついた時からのマスコミの影響、初等中等国語教育の効果もあって、都会に出ても物おじすることなく話す事はできそうね。
私:金田一春彦先生は東京式アクセントを方言周圏論のように内輪・中輪・外輪をはじめ細かく七パターンに区分され、岐阜県は内輪グループ(岐阜愛知・紀伊山地・京丹後・岡山・四国南西)の中でもその真ん中にいるわけだから、つまりは東京式アクセントのど真ん中に位置する。
君:郷土愛は結構ですが、ご発言はほどほどに。たった一言が全国の皆様を敵に回す事があるのよ。
私:そうだね。事実を淡々と述べる事すら気を付けないといけない時代になった。
君:今日の表題の意味は?
私:飛騨の人達はアクセントの事を気にする必要が無いので、無頓着になってしまう。だから方言学を学ぶにしても全国にどのようなアクセントがあるのかをキチンと学ばなくてはいけない。
君:立派な心掛けね。それで?
私:最近の勉強で、おやっ、と思った事がある。「服部四郎
君:それで?
私:動画の後半 24:45 からは平山輝男先生の話が始まる。これが表題との関連。
君:簡単に説明してね。
私:日本語はピッチアクセントの言語で英語はストレスアクセントの言語である事が知られているが、世界の言語のアクセントはそれだけではない。ピッチやストレス以上に多くの国で用いられているのがトーンアクセントというもの。その代表選手が中国語で、アフリカの諸言語もトーンアクセントが多いと言われている。そして平山輝男先生が提唱したのが南九州の独特のアクセント、二型アクセント、というもの。声調アクセントともいうが、トーンアクセントという事。つまりは南九州のアクセントは中国語と同じようなアクセント体系とも考えられる。
君:九州は地理的に中国に近いから、と考えてもいいのかしら。
私:東南アジアの諸言語はじめアフリカ大陸の言語の多くがトーンアクセントだそうだから、日本語のピッチアクセントは世界の中では寧ろ少数派という事のようだ。
君:そこで表題ね。中国語で「お母さんが馬を叱る」はなんと発音するのかしら。
私:「ま・ま・ま。」。「お母さんが」は「ま」、「馬を」も「ま」、「叱る」も「ま」。日本語のようなピッチアクセントの言語では、一つの語の中である音が別の音に対して高いか低いかという事で意味を弁別する。日本語のピッチアクセントでは、上がる事に意味はほとんどなく、どこで下がるかだけを重要視する。声調の場合は少し違っていて、ひとつの音の中で、上がるか・さがるか・上がりっぱなしか・下がりっぱなしか、という事で意味を区別する。だから中国語では「ま・ま・ま。」がひとつの文章として意味を成し、中国語入門コースでは、真っ先にこれを叩き込まれるという。欧米人にとってもこの声調言語は魅力のようで、ネット情報も多い。,
君:Aの動画だけど、本当に読む速度が速いわね。マシンガントークよね。
私:米国留学時代を思い出す。習うより慣れよ。最初は辛かったが、徐々に聞き取れるようになってきた。最終的にはいちいち日本語に訳して考えないようする事にした。英語を英語のまま受け止める。英語の事は英語で考える。英語の事を日本語で考えない事だ。ただし日本語の事を英語で考えると英米人にはモテるだろう。
君:今日は取り留めない話ね。
私:方言学に戻ろう。金田一春彦先生は、この二型アクセントをお認めにならない立場のようだ。南九州のアクセントは東京式アクセントの最も薄いタイプという事で、一番に東京式が濃厚なのがギア方言という事のようなんだ。
君:でも故人におなりで、業績はストップしているわけだし、国研の仕事が進めば危うし金田一説、二型アクセントの概念が定着するのかしらね。
私:平山輝男先生は宮崎県都城市のご出身。宮崎県と言えば崩壊アクセント。つまり一型。隣の鹿児島県はトーンアクセントで二型。先生が崩壊アクセントと声調アクセントに強烈にご興味を示された事だけは、だから僕にはよく理解できる。ただし、どっぷり東京式アクセントに使っている飛騨人の僕には深く理解できないで困っている。
君:そう思うのはあなただけ。貴方が困っていようが、誰も困らない。
cf. 黒田龍之助「はじめての言語学」講談社現代新書 pp113-8

ページ先頭に戻る