大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 音声学 |
基底膜進行波説とプレスチン |
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私:表題だが、どう思う。 君:方言学とは関係ない話題ね。 私:確かにそうだが、より厳密には、方言学とは直接的には関係ないという事。 君:間接的な関りがあるのね。 私:方言学で大切なのは、話し手の言葉をきちんと聞くという事。そして、ヒトは何故、聴く事が出来るのか?耳があるから。具体的には内耳というAD変換器があるからだ。基底膜進行波説とはこの内耳のAD変換の仕組みのセントラルドグマになっている。 君:一言で簡単に説明してね。 私:一つの論文でノーベル医学生理学賞に輝いた男がいる。ハーバード大学教授の G. V. Bekesy 氏は、音刺激に対して蝸牛の基底膜上に周波数に応じた波形分布が観測されるのを発見して「基底膜進行波説」を唱え、1961 年にノーベル医学生理学賞に輝いた。The Variation of Phase Along the Basilar Membrane with Sinusoidal Vibrations Georg V. Bekesy, J Acoust Soc Am 19, 452-460 (1947) 君:あら、おめでとうございます。 私:ところが最近、内耳で音を増幅する生体モーター Prestin というものが発見されて、基底膜進行波説は嘘らしいという事になりつつある。日本語で分かりやすいのが、ここ。 君:そもそもが、方言学徒の佐七君がどうしてプレスチンに興味があるのかしら。 私:それはね、コウモリやイルカの事を考えてだね。以下の図からわかるように、人間というのは恐ろしいほど聴力が衰えた動物なんだ。老人では8-10KHzを聴けるのがやっと。4KHz以下になると補聴器なしでは生きていけないね。 ![]() 君:コウモリってすごいわね。400Khz、音とはいわず、超音波というのね。 私:基底膜進行波説に戻ろう。外耳から入る音の周波数と基底膜の有毛細胞の興奮が1対1で対応しているという理論と考えればいいだろう。ところで耳からはデジタル変換されて神経から神経へと、音の情報が伝わる。二つの神経末端でカルシウムイオンを受け渡して行う。分極・脱分極という事でオン・オフの機能、つまりデジタル化された情報になる。そして分極・脱分極に要する時間というのは、生物で同じだと思うがカルシウムイオンという transmitter の場合は 60-70 microseconds ほどだ。Glutamine, GABA, Dopamine, Epinephrine, Serotonin, Oxytocin, Acetylcholine 等の、もっと高分子物質が使われることもある。これからAD変換前の情報、つまりは音の周波数を計算するといくつになる? 君: 1/ 60-70 micro の計算ね。ざっと17KHzね。老人の聴力がせいぜい8KHzとなると、ざっと17KHzというのはすでに人間の限界ね。 私:ネットにアクセスして検査できる。ボタンを押してみて、音が聞こえますか? 君:佐七君はちゃんと聞けたかしら。 私:10KHzは楽勝。14KHzも聴けるが、実は低い音に聞こえる。不思議だ!!僕の脳みそはクレイジーなのだろうか??医学は奥が深いね。蛇足ながら、僕は耳鳴りが始まっている。やれやれだ。 君:コウモリなどの桁違いに聴力が優れた動物においては基底膜進行波説では説明がつかないわね。 私:なんだ、わかっているじゃないか。まさにその通り。 Prestin あるいは類似の蛋白が関与しているのじゃないかな。 君:早とちりのスウェーデン王立アカデミーという事で、ノーベル賞って貰い得の事があるのね。ほほほ |
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