飛騨方言は東京語に等しく鼻濁音の存在する地方なのですが、
鼻濁音がなくても濁音だけで会話は可能であるものの、
やはりあったほうが筆者には俄然聞きやすく、
大切にしたい地方文化という訳です。
ましてやNHK式を地でいけばよいのですから言う事なし。
前置きはさておき、なぜ鼻濁音があったほうが
聞きやすいかと申しますと、鼻濁音と濁音の二者は
実に全く別の発音で別の意味で捕らえられるから、
という事なのでしょうね。
さて共通語の大事なルールとして、語頭、文節の頭には濁音しか
たたないという事がありましょう。
逆に言えば、文中にしか鼻濁音はたたないのです。
これは相補分布に他なりません。
だからこそ文節の切れめを意識させるのに濁音は有効であり、
文中である事を明示するのに鼻濁音は有効です。
例えば、ガ行鼻濁音を(nga ngi ngu nge ngo)で表記しますと、
共通語文例ですが、
が(ga)っこうでゴ(go)ング(ngu)が(nga)鳴った。
ゴ(go)ング(ngu)が(nga)が(ga)っこうで鳴った。
ゴ(go)ング(ngu)が(nga)鳴ったが(ga)っこう。
しょうが(nga)っこうでゴ(go)ング(ngu)が(nga)鳴った。
ゴ(go)ング(ngu)が(nga)しょうが(nga)っこうで鳴った。
ゴ(go)ング(ngu)が(nga)鳴ったしょうが(nga)っこう。
ささいな事かも知れませんが(nga)、
やはり飛騨人にとっては、ガ(ga)ァーン、鼻濁音はあるにかぎ(ngi)るのです。
以上は平凡な話といえましょう、ですから前置きです。
さて本論ですが、か・が、の助詞といえば、
か、は終助詞、副助詞、並列助詞、の三者でしょう。
そして、が、は格助詞、接続助詞の三者ですね。
さらには終助詞、副助詞、並列助詞、の三者、か、が、
濁音化して、が、になるのが飛騨方言です。
つまりは、終助詞、副助詞、並列助詞、格助詞、接続助詞、
の五品詞に渡って、が、で話すのが飛騨方言です。
もうわけがわからないので表を作りましょう。
共通語 飛騨方言
格助詞 さしちが(nga) さしちが(nga)
終助詞 いくか(ka) いくが(ga)
副助詞 どなたか(ka) どなたが(ga)
並列助詞 Aか(ka)Bか(ka) Aが(ga)Bが(ga)
接続助詞 書いたが(nga) 書いたが(nga)
という事ですからキチンとした音韻対応があり、
相補分布が守られ、単なる訛り現象という事のようです。
ただし、最近は飛騨方言においても鼻濁音は廃れる方向に
あるようですね。つまりは、
共通語 飛騨方言
格助詞 さしちが(nga) さしちが(ga)
終助詞 いくか(ka) いくが(ga)
副助詞 どなたか(ka) どなたが(ga)
並列助詞 Aか(ka)Bか(ka) Aが(ga)Bが(ga)
接続助詞 書いたが(nga) 書いたが(ga)
という事なのです。
飛騨方言の格助詞・接続助詞・が(ga)、が
実は共通語の終助詞・副助詞・並列助詞(ka)の
領域とオーバーラップしてしまいます。
つまりは相補分布の破綻です。
ですから結論ですが、飛騨方言でも訛りは勿論おおいに結構ですが、
相補分布の規則だけは破らずに鼻濁音の伝統を守りましょう。
この程度は飛騨地方ならば小学校でキチンと教えて欲しい、
つまりは音読の勧め。