大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

飛騨方言のリエゾン

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左七:ここは言語学のコーナーなのでなるべく片仮名も覚えよう。
家内:Liaison リエゾン、フランス語ね。
左七:ふふふ、こればかりは日本語・子音の挿入、より片仮名のほうが情緒があるね。例えば春雨を、はるあめ、と呼ばないで、はるさめ、と言う事だ。しかし、飛騨方言にはリエゾンがないな。
家内:でも・・やっとみつけたのでしょ。
左七:まあね、でなきゃ書けない。答えは、とうな。飛騨方言でトウモロコシの事だ。語源がわかるかい。
家内:無理ね。あなたも。でも、・・みつけたんでしょ。
左七:そうだ。みつけた。ある書に、唐粟、の漢字入りで語源の紹介があった。
家内:それならわかるわ。とう+あわ、で、とうあわ、と言っていた言葉が、いつの間にやら、とうなわ>とうな、となったのかしら。な、という音がリエゾンで、今の所たった一つの飛騨方言のリエゾンなのでしょ。
左七:そうなんだよ。概して日本語にはリエゾンが少ないが、フランス語には多い。何故だと思う。
家内:フランス人の好みかしら。
左七:実は今日から調べ始めたばかりでほとんど知識がないんだ。第一、僕はフランス語を知らない。ケーキ屋さんへ行こうが、酒屋さんでワインを買おうが、仏料理店でメニューを見ようが、さっぱりさ。あなたも仏語を選択しなかったから夫婦でとんでもない結論になるかも知れないが。
家内:どういう意味かしら。
左七:ひとつには母音の数じゃないかい。日本語は5、仏語は8。連母音の組み合わせの可能性は日本語では5x4=20、仏語は8x7=56。連母音を避ける為の手段がリエゾンだから、母音の多い言語ほどリエゾンも多いのじゃないかい。
家内:ほほほ、偉大な発見ね。どこかに既に書いてあるかも知れないし、まるっきり外れの可能性も無いかしら。
左七:おいおい、じゃあ君の考えはどうなんだ。
家内:飛騨方言にたった一個でもリエゾンみつけたぞ、というあなたが可笑しいのよ。
左七:言葉だな。じゃあこんな逸話を知ってるかい。金田一京助さんがバリカンの語源を知りたくなって、何年もお調べになった。ついに発見、実はそれを昔に製作した会社の名前だったそうだ。金田一春彦さんが、日本に、みゅ、の拗音があるか何年もお調べになったら、やはりあった、イマミュウダ・今壬生田、という姓が実在したのだ。僕は飛騨方言にたった今、リエゾンを一個発見して愉快でたまらない。
家内:失礼しました。ついでに唐粟のうんちくをどうぞ。
左七:そうだね。トウモロコシが飛騨に入ったのは富山経由で、室町時代あたりだったらしい。さて昔の雑穀といえば、あわ、以外に何があったと思う。
家内:あわ、とくれば、ひえ・稗、よね。
左七:その通り、では何故、トウモロコシの名前は、とうひえ、にならなかったののだろう。
家内:それではリエゾンにならないから、あなたががっかりなさるからよ。昔の方はえらいわ。
左七:ははは、からかって。質問を変えよう。飛騨の雑穀はかつては、ひえ・あわ、どちらが主役だったか。
家内:あわ、かしら。そこへ、可笑しな種、つまりは外国・唐からの農産物がやってきたという事かしら。
左七:逆だ。飛騨の雑穀は、ひえ、なんだ。気候風土というのがあって、稗の国、粟の国、に分かれるが、飛騨は稗の国。ネットにいくらでも情報がある。寒い地方は、ひえ、だ。冷えた国には、ひえ・稗。つまりは飛騨の民は誰も、唐粟どころか、粟そのものすら見た事が無かったんだよ。
家内:だから、いかにも不思議な作物であるが、日本の暖かい地方で作られている粟というものの生まれ変わりか、これを唐粟と名づけよう、と考えたのね。
左七:ははは、完全正解だろう。君と僕は実に気が合う。ただし考えたのは富山の民だろうね。富山では、となわ、という。
家内:とうなわ、という名前までもが富山からの輸入品、という意味なら、飛騨オリジナルのリエゾンではなくなるわね。あなた、頑張ってもう一個を探さなくては。

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