大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

(白浪五人男)弁天小僧

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僕:歌舞伎は家内の影響で、御園座には足しげく通っている。
君:表題は有名な歌舞伎ね。
僕:文久2年(1862)だから江戸後期。現代語に近いので誰でも聞きやすいと思う。ちょいと飛騨方言に訳してみた。
知らざあ言って聞かせやしょう -> しらんにゃそってきかせるさぁ
浜の真砂と五右衛門が
歌に残した盗人ぬすっとの -> 歌にのこいだぬすっとの
種は尽きねぇ七里ヶ浜 -> たねぁつきん七里ヶ浜
その白浪の夜働き
以前を言やぁ江ノ島で
年季勤めの児ヶ淵ちごがふち
百味講ひゃくみで散らす蒔銭まきせんを
当てに小皿の一文子いちもんこ
百が二百と賽銭のくすね銭せぇだんだんに
悪事はのぼる上の宮かみのみや
岩本院で講中の
枕捜しも度重なり
お手長講と札付きに
とうとう島を追い出され -> しまいにゃ島を追い出され
それから若衆わかしゅの美人局つつもたせ
ここやかしこの寺島で
小耳に聞いた祖父じいさんの
似ぬ声色こわいろで小ゆすりかたり
名せぇ由縁ゆかりの
弁天小僧菊之助たぁ 俺がことだ -> 方言小僧左七ってゃ おりのこっちゃさ

君:しらざあ・しらんにゃ、の対比は?
僕:知らないならば、の意味なので仮定形。しらざれば・しらねにや、だろう。
君:言って・そって、は?
僕:飛騨方言「そう」は「そう言う」からの転。
君:きかせやしょう・きかせるさ、は?
僕:意志表現。きかせやすとしよう・きかせるさなり、かな。
君:のこした・のこいだ、は?
僕:飛騨方言に於けるサ行動詞のイ音便。
君:たねは・たねぁ、は?
僕:飛騨方言に於ける格助詞「は」の母音の無声化。
君:つきねぇ・つきん、は?
僕:否定の助動詞「ない・ぬ」の東西対立。江戸語は東国方言の影響で上古の否定の助動詞「なふ」が近世語で「ない」に変化。飛騨方言は否定「ず」の文語連体形「ぬ」から口語終止形「ぬ」が生まれた。中世における終止形・連体形同一化現象。
君:菊之助たぁ・左七ってゃ、は?
僕:とは・っていやぁ。
君:飛騨方言って「そう」じゃなかったかしら。
僕:単独では「そう」。連語では「いう」。
君:おれ・おり、は?
僕:おれ・おまえ、は飛騨方言では、おり・わり。
君:ことだ・こっちゃさ、は?
僕:飛騨方言は、ことであり、の促音便「こっじゃ」が更に清音化。
君:問われて名乗るもおこがましいが、も有名よね。
僕:おこがましい、は飛騨方言だと、たいもない、かな。
君:語源は?
僕:やくたいもない益体無。江戸語だね。「やく」の脱落。
君:白波って何か意味があるのかしら。
僕:待ってたぞ、その言葉。しらなみ白波、とは盗人の隠語だ。後漢書・霊帝紀の白波賊から来た言葉。吾妻鏡にある。鎌倉時代の隠語だ。
君:浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ。世に飛騨方言の種は尽きまじ。ほほほ

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