大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 心の旅路 |
三河言葉 じゃんだらりん |
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私:私にとって飛騨高山は第一の故郷、名古屋市が第二の故郷、そして愛知県安城(あんじょう)市が第三の故郷になる。 君:名古屋市は大学生時代ね。という事は社会人のスタートが安城市という事かしら。 私:その通り、1978-82の四年間を安城市で。安城更生病院の内科に勤務した。社会人というか、独身時代の思い出が詰まった町だ。昨日は偶然に【安城市PR動画】JANG DA-RA RING(じゃんだらりん)を発見。わざわざゾンビを出す動画と言う点については賛否が分かれると思う。じゃんだらりん、は三河方言を端的に表す方言キャッチコピーなので、この点は大いに評価したい。 君:では「じゃんだらりん」の説明をお願いね。 私:三河方言に特徴的な文末詞の三連発だ。「そうじゃん」は「そうじゃないですか(確認・念押し)」、「そうだら」は「そうじゃないですか(質問)」、「食べりん」は「食べなさい「命令・勧誘」。 君:「そうじゃん」と「そうだら」の差が微妙なのね。 私:まあね。話し手に確証があるかないかが使い分けのポイントになるね。「あんたぁ三河の人じゃん」と言えば「(絶対に間違いないと思う、聞くまでも無いことかもしれないけれど敢えて)貴方は三河出身のお方ですよね。」という意味。「あんたぁ三河の人だら?」と言えば「(若しかして間違いかも知れませんが、多分)貴方は三河出身のお方ですかね。」のニュアンスだ。 君:「りん」は「じゃん・だら」と異なり、「命令・指示」の意味になるのね。 私:その通り。「じゃん」「りん」は断定的な言い方で、「だら」は曖昧・不確定な言い方とも言える。 君:「そうじゃん(か)」は現代の若者言葉になっているわよ。東京語と勘違いなさる人もおみえでしょう。 私:三河の「じゃん言葉」を徹底的にお調べになったのが井上史雄先生。岩波新書「日本語ウオッチング」に詳しい。戦後に三河で流行り、東京にもたらされ、全国版になった言い回しだ。関西では明治・大正辺りに関西の若い女性で「そうやん(か)」が使われ出して近畿に広まったらしい。こうして「そうじゃん・そうやん」の東西対立が生まれた。 君:あなたとしては「じゃんだらりん」を意味論に関連付けて古語の助動詞の品詞分解してみたいのよね。つまりは語源探し。 私:なんだ、わかっているじゃないか。早速に「じゃん」から行こう。指定の助動詞「じゃ」+「ん」である事は明らか。更には「じゃ」の語源は「であり」。だから「ん」の正体は何かな。 君:簡単すぎるわね。完了・確述の助動詞「ぬ」。つまりは「で」+連用形「あり」+「ぬ」で、「〜でありぬ」。 私:「ぬ」から「ん」への音韻変化についても説明の必要はないが敢えて、母音の脱落で、★「でありぬ」「でありん」「じゃん」。ではつづいては「だら」を解析しよう。まずは分解だ。ははは 君:「だら」は「だ」+「ら」ね。ほほほ、かわるわよ。 私:「だ」も「ら」も方言学のイロハだからね。では僕から答えよう。「だ」も語源は「であり」。これが板東方言では室町あたりから「でぁ」、やがて「だ」に変化した。「ら」は推量の助動詞「らむ」から「む」が脱落したもの。蛇足ながら僕が住む可児市には「ほうやら(ねえ、そうでしょう)」という言い回しがあるが、これも「そうであらむ」が語源だ。ここでポイントは接続だよね。 君:ええ。「らむ」に先行接続するのは用言の終止形、ラ変型は連体形。つまりは「そうだら」は「そう」+「で」+自ラ変「あり」の連体形「ある」+終止形「らむ」、つまりは語源は★「であるらむ」、転じて「であらん」「でぁら」「だら」。 私:その通り。じゃあ、最後に「りん」はどうかな。これもまずは品詞分解の仕事からだね。 君:ほほほ、「りん」だから「り」+「ん」。ところが「りん」は命令形である事がポイント、つまりは、完了存続の助動詞「り」の連用形「り」+完了確述の助動詞「ぬ」の命令形「ね」、何の事は無い、語源は★「りね」。 私:そうだね。動詞連用形「食べ」+「りん」の語源は複合助動詞「りぬ」の命令形という訳だ。完了存続+完了確述を命令形にする訳だから、「りん」には「何が何でも〜しなさい」という、話し手の強い働きかけの気持ちが込められている。 君:折角だから「じゃんだらりん」にかけて例文はどうかしら。 私:ほいきた。全ての方言文末詞の語源は古語の助動詞に品詞分解して解釈が可能じゃんか。「じゃんだらりん」って良い例だら。それでも疑問に思う箇所があれば遠慮せずにしゃべりん。 君:あるわけないじゃんね。でも、安城更生病院の時代は専ら英語で方言なんか興味が無かっただら。て事で、今日もおしまい。はよう、古語辞典かたづけりん。 |
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