長崎の方言

目的格の格助詞「ば」

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私:長崎県の五島列島に行った。西海国立公園だ。無人島が寧ろ多く素晴らしい自然。
君:格助詞「ば」の例といえば何?
私:博多方言にもよく聞かれるだろう。五島生まれ育ちのバスガイドさんだったが、例えば「さかなば、たべるけん」、意味は「魚を食べるので」。
君:「けん」は既出ね。順接確定「からに」が語源。「ば」についても、ははあ、と思ったのね。
私:「ば」は格表現の目的格に相当するので、語源は「をば」で決まり。「を」が脱落して「ば」になった。
君:それ位なら誰でもわかるわよ。
私:「をば」の語源は格助詞「を」+係助詞「は」だ。つまりは平安時代辺りに「をは」から「をば」への音韻変化が生じ、中央で完成、これが西日本に広まった、という事なのだろう。
君:さあ、それはどうかしら。接続助詞「ば」があるわよ。もっともこれも係助詞「は」から分化したものだけれど。
私:でも複合助詞「をば」は意味としては目的格。「は」が後接しようが、「ば」が後接しようが、意味は変わらない。
君:然も中央では「をば」がやがて廃れ、「を」に戻ったのよね。
私:もう一つ、平安時代に中央で起きた音韻事件がある。
君:ハ行転呼ね。「は」の音韻が「ワ」になった事。
私:戦後の新仮名遣いで大問題となったが、「は」は残る事となった。親父ギャグ
君:飛騨方言との対比は?
私:飛騨方言では複合格助詞「をば」も、格助詞「ば」も使わない。断じて。博多方言に代表される、西日本の言い方だと思う。
君:五島と博多は近いのね。
私:飛行機なら。船だと7時間だ。隣県とは言え、近いとは言えないが、五島にとって長崎市以上に大都会の博多。影響は大。それとアクセントの問題がひとつ。
君:「をば」は頭高ね。
私:そう。だから「ば」単独となると、強アクセントになる事もあるが、そうでない場合もある。
君:わかり易く説明してね。
私:係助詞「は」は英語なら regarding or as regards つまり主題の提示。よく言われるのが「は」と「が」の使い分け。「は」は主語に成れないが、「が」は主語になる。
君:文例は?
私:僕は君が好きだ。これは、(僕の周りに女性は多いが)僕にとって君が好きな人なのです、の意味。君は僕が好きだ。これは、(君の周りに男性は多いが)僕だけが君を好きだ、の意味にもなる。
君:それは意味不明。
私:係助詞「は」・接続助詞「ば」、両者には明確な使い分けがある。
君:それは簡単すぎよ。前者は体言に接続し、後者は用言已然形に接続するのね。
私:そう。五島の格助詞「ば」も体言に接続するのみ。強調する時は「ば」にアクセント核が出現、そうでなければ無核。
君:そうそう、終助詞の「は」もあるわ。現代語では女房詞だわ。おばんギャグ。ほほほ

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