大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 心の旅路

くわーどぅ宝(徳之島)

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私:奈良県や滋賀県と同じで岐阜県の悲劇といえば海が無い事。特にハイランド飛騨は。島国日本なのにね。
君:でも山があるわよ。有無同然。
私:離島の旅にはまっている。今日は徳之島の話。ユネスコ指定絶滅危惧言語の島。
君:「たから宝」の説明は不要だけれど「くわーどぅ」とは。
私:ヒントは山上憶良、金銀銅。
君:しろがねも くがねも玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも。なるほど徳之島方言「くわーどぅ宝」は「子は宝」の意味ね。
私:ご名答。ところで銅はナニガネ?
君:あかがねよ。今日のテーマは「くわーどぅ」ね。カ行音だから日琉祖語のお話というわけね。
私:お見通しだね。南西諸島の方言は本土の方言とは相当に音韻が異なるので、その語源を考える事は簡単な事ではない。逆に、それが判った時は感慨深いものがある。まずは音節から行こう。分解出来るね。
君:「くわー」+「どぅ」かしら。「くわー」が「子」の意味ね。
私:如何にも。沖縄では濁音化するね。うちなーぐち「ぐわー」。
君:なるほど。では、「どぅ」は係助詞「は」かしら。
私:御冗談を。「は」が「ど」になるわけがない。係助詞「は」の部分は不正解だ。
君:でも何かの古語、別の助詞かしら。
私:その通り。ヒントは、銀も 金も玉も 何せむに まされる宝 子ぞたちまさる。
君:なるほど徳島方言「どぅ」の語源は古語の係助詞「ぞ」だったのね。
私:いや、そこが大問題。元々が日琉祖語という古代の言語があって、これが南西諸島で「どぅ」、そして大和朝廷の本土で「ぞ」になったという意味だから、「どぅ・ぞ」の祖語たる係助詞が古代に存在していたという事だ。「ぞ」は若しかして南方由来の助詞なのかな、という事もわかる。実は万葉集の時代は漢字表記(万葉仮名)の時代であり、「ぞ」は清音仮名の表記「其・彼・夫」、つまり指示代名詞の中称の場合が寧ろ多いんだ。だから「ぞ」の古い音韻は「そ」であり、徳島方言「どぅ」の古い音韻は「と」であった可能性がある。つまりは、これは僕の勝手な想像だけど、日琉祖語の音韻は「と・そ」の何れだったのかな、要はサ行とタ行の子音交替で二手に別れたのかな、という考えも成り立つね。でも若し間違っていたらゴメンナサイ。要は、方言あるいは古典文学を学ぶという事は日本語の歴史を学ぶという事。大学入試という事を考えると、理系の受験に古文漢文なんて必要ないでしょ、と思う高校生がいるとしたら考え直して欲しい。それに方言学(古文の応用学)は実用の学問でもある。
君:実用?どういう事?実用と言えば何と言っても生物・化学と語学ツールの英語でしょ。
私:仕事柄、人と話す場合に方言、古文、言葉の語源をお披露目したり、相手の言葉遣いから御出身地をズバリ言い当てたり、これがまた受けて。方言学はどなたが相手でも話題作りに持ってこいの知識なんだよ。
我がオフィスは 名古屋のたつみ 鹿ぞ住む 世を宇治山と 人は言ふなり
君:数学も英語も現国もなにせむに 左七には方言学ぞ宝なる。離島を楽しんでね。ほほほ

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