ソウルメイトのSちゃんへ
元気かい。僕は相変わらずだ。最近、久しぶりに方言サイトを再開した。ほとんど毎日のように更新する日々がかれこれ三週間、続いている。そう、僕は飛騨方言をテーマにまた千一夜物語をやろうという魂胆なんだ。目標一万ページと書いてみた。どうだい、ふるってるだろ。ははは、千一夜をあと八回さ。まあ、そのうちに僕の寿命が尽きるだろう。僕も若くはない。・・おっと、君と僕は同級生、でも君は僕より若いよ。同窓会で逢えるのをいつも楽しみにしている。君は美貌が少しも衰えていないし、昔の学生時代のイメージそのままで会に出てきてくれているんだ。
前置きはさておき、早速に今日の本題。君は文学部なので僕より二年先に社会人になった。というか、僕が医学部の五年生、そして君は若き国語教員で中津川の坂下の高校に赴任した時の事だ。覚えているかい。事前に手紙で連絡を取り合ったのだっけ、夏休みに僕が君を訪ねて来た事を。僕はたまたま、恵那の上矢作町というところで学生フィールドワークがあり、それを終え、飛騨へ帰省する途中、君を訪ねたんだ。車は親から借りた日産サニー。僕なりに君に会いに行くにふさわしい車だと思って、精いっぱいに見栄を張ってわくわくしながら訪れたのだが、君は僕の車を覚えているだろうか。
野暮な詮索はよそう。さて、当日の君は職場や界隈を案内してくださって、今でも楽しく思い出す。実はその日の思い出でで最も楽しかった事がある。僕の口火は知ってるかい、ここって藤村の妻籠・馬籠が近くだけど、まだ行った事ないよね。 君は途端に目を輝かせてえっ、ほんと?! 行きたい。連れてって。今すぐ。 実は思わぬ話の展開、という訳だ。時間は午後をとっくに回っているし、僕は元々は三時間ほどかけて飛騨へ帰る予定だったし、今から妻籠・馬籠へ行けば夕方じゃないか。でも、君に嫌われたくなくて、はいはい、と返事をしてしまったのだった。勿論、今でも後悔していないし、文学の散歩道をデート出来たのは、むしろ二人の思惑通りだったのかもしれない。藤村をだしにして二人あれこれ話ははずみ、そして木曽路に別れを告げ、君をお住まいに無事にお届けした時にはすっかり暗くなっていた。やれやれ、僕が飛騨に帰れたのは十時だった。
結論だが、二人での夕暮れ時の『夜明け前』談義、というわけだ。全国の多くの読者の皆様は、この手紙を何だか作り話のようにお感じかも。でも、僕には関係ないね。だって本当の僕達の思い出だもの。では次回の同窓会で。もっともねえ・・・えっ、そんな事あったかしら、という真顔の答えが返ってくるかもしれないな、と今、僕はおびえている。なにせ43年前のたった数時間の事だからなあ。
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