大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法

飛騨方言における疑問の終助詞・が、の疑問文中の省略現象

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共通語では、疑問詞(誰が、いつ、どこで、など)が文中にあれば、疑問の終助詞・か、を省略しても意味が通ります。 例えば、誰と行くか?、とわざわざ、か、をつけなくても、誰と行く?、でも十分に意味が通ります。 否、むしろ、疑問詞があれば疑問文であるので、そこへもってわざわざ疑問の終助詞・か、をつける必要はない、 とも極論できましょう。

さて、(1)飛騨方言とて国文法、(2)方言だから成るべく省エネで語は省く傾向がある、 の二つが重なり、飛騨方言でも、文中に疑問詞のある疑問文においては疑問の終助詞・が、を省略する傾向があります。 別項に沿った形で以下に概説しましょう。本稿中、だりゃ、というのは飛騨方言で、だれが、と言う意味です。 どこぁ、は、どこが、と言う意味です。

終止形及び体言
+疑問の終助詞・が
共通語と同じです。するを飛騨方言では、せる、といいますので、
疑問の終助詞非省略形 だりゃせるが? どこぁ痛いが? どこらが鳥が?
疑問の終助詞省略形  だりゃせる?  どこぁ痛い?  どこらが鳥?
終止形
+接続助詞・の、の撥音便
+疑問の終助詞・が
+感動詞、な、あるいは、なあ
疑問の終助詞非省略形 だりゃせるんがな? どこぁ痛いんがな?
疑問の終助詞非省略形 だりゃせるのがな? どこぁ痛いのがな?
疑問の終助詞省略形  だりゃせるな?   どこぁ痛いな?
撥音便にならなくても飛騨方言のセンスにはあいます。 疑問の終助詞・が、が省略される場合、接続助詞・の、の撥音便も同時に省略される事に 注目してください。だりゃせるんな?、どこぁ痛いんな?は不可です。
終止形
+接続助詞・の、の撥音便
+疑問の終助詞・が
+親しみの終助詞・い
+感動詞、な、あるいは、なあ
上記の言い回しに、い、を付加します。動詞では接続助詞・の、の撥音便をも省略する超省略形 があります。が、しかし形容詞ではこの超省略形は不可です。終止形の末語・い、と親しみの終助詞・い、 がぶつかり合い、いい、という発音になる事が飛騨びとには嫌われるのです。どこぁ痛いえな?は可です。 ただし、この場合、えな、というのは女性格の終助詞・えな、と言う事になります。 撥音便にならなくても飛騨方言のセンスにはあいます。
撥音便の言い方
疑問の終助詞非省略形 だりゃせるんがいな? どこぁ痛いんがいな?
疑問の終助詞省略形  だりゃせるんいな?  どこぁ痛いんいな?

撥音便無しの言い方
疑問の終助詞非省略形 だりゃせるのがいな? どこぁ痛いのがいな?
疑問の終助詞省略形  だりゃせるのいな?  どこぁ痛いのいな?

超省略形 だりゃせるいな?   (どこぁ痛いいな?は不可)
終止形及び体言
+疑問の終助詞・が
+飛騨方言特有の男性宣言終助詞・((M1)い ないし (M2)よ) あるいは
+飛騨方言特有の女性宣言終助詞・(F)いな +親しみの飛騨方言終助詞・い
上記の言い回しに、い、よ、いな、を付加します。
疑問の終助詞非省略形 
男性(M1) だりゃせるがい?  どこぁ痛いがい?  どこらが鳥がい?
男性(M2) だりゃせるがよ?  どこぁ痛いがよ?  どこらが鳥がよ?
女性(F)  だりゃせるがいな? どこぁ痛いがいな? どこらが鳥がいな?

疑問の終助詞省略形  
男性(M1) だりゃせるい?  どこぁ痛い?   どこらが鳥?
男性(M2) だりゃせるよ?  どこぁ痛いよ?  どこらが鳥よ?
女性(F)  だりゃせるいな? どこぁ痛いいな? どこらが鳥いな?
どこぁ痛いい?  どこらが鳥い?は不可です。 疑問の終助詞・が、が省略される場合、男性宣言終助詞・((M1)い、も同時に省略されるのに対し、 男性宣言終助詞・(M2)よ、は省略されない、と言う事に着目してください。
終止形
+接続助詞・の、の撥音便
+疑問の終助詞・が
+飛騨方言特有の男性宣言終助詞・((M1)い ないし (M2)よ) あるいは
+飛騨方言特有の女性宣言終助詞・(F)いな +親しみの飛騨方言終助詞・い
男性宣言終助詞・((M1)い、には省略形はありません。また女性の省略形ですが、 むしろ、どこぁ痛いんえな?という言い回しが自然かもしれません。 また、男性が、〜んよ、あるいは、〜のよ、と話すのは少し奇異に思われるかも 知れませんが、時代劇で、悪代官が袖の下をもらって、 "こりゃかなわぬのよ、のう。"などと言う場面を思い浮かべてください。

上記の言い回しに、ん、を付加します。極めて飛騨方言らしい言い方でしょう。 接続助詞・の、の撥音便有りの言い回しは以下の通りです。 疑問の終助詞非省略形  男性(M1) だりゃせるんがい?  どこぁ痛いんがい? 男性(M2) だりゃせるんがよ?  どこぁ痛いんがよ? 女性(F)  だりゃせるんがいな? どこぁ痛いんがいな? 疑問の終助詞省略形   男性(M1) だりゃせるんい?は不可 どこぁ痛いんい?は不可 男性(M2) だりゃせるんよ?    どこぁ痛いんよ? 女性(F)  だりゃせるんいな?   どこぁ痛いんいな?
また実は撥音便は無くても飛騨方言のセンスに合います。 接続助詞・の、の撥音便無しの言い回しは以下の通りです。 疑問の終助詞非省略形  男性(M1) だりゃせるのがい?  どこぁ痛いのがい? 男性(M2) だりゃせるのがよ?  どこぁ痛いのがよ? 女性(F)  だりゃせるのがいな? どこぁ痛いのがいな? 疑問の終助詞省略形   男性(M1) だりゃせるのい?は不可 どこぁ痛いのい?は不可 男性(M2) だりゃせるのよ?    どこぁ痛いのよ? 女性(F)  だりゃせるのいな?   どこぁ痛いのいな?

追記
  • 山田敏弘さん・岐阜県メールマガジン・岐阜県の方言・第八話「〜か?」と「〜よ?」〜文末での疑問の表し方http://www.pref.gifu.lg.jp/pref/magazine/030317/030317.htm の記事がどうしても気になります。

    「〜か?」と「〜よ」を使い分けているというよりは、「〜よ?」というのが 実は、「〜かよ?」と言うべき所を、か、を省略しているのが飛騨方言と考えるべきではないでしょうか。 ところが問題提起、か、の省略は飛騨方言特有ではありません。国文法そのものでしょう。 ほんとかよ?ほんとよ!
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