別稿にて飛騨方言の男性格終助詞・ぞ、と共通語終助詞・ぜ、の接続の差異を記載しました。
ところが実は、飛騨方言では、終助詞・ぞ、も共通語終助詞・ぜ、も共に用いられます。
飛騨方言では、飛騨方言特有終助詞・ぞ、が用いられるのは何をかいわんやですが、ところで飛騨方言で
共通語終助詞・ぜ、が用いられると言う事に何の意味があるでしょうか。
ところがこれが大変に興味深い事に、飛騨方言においては厳密な規則のもとに、共通語終助詞・ぜ、が実は使用されます。
つまりはその規則の通りに共通語終助詞・ぜ、を使用すれば飛騨方言らしい言い回しになり、また規則から外れて
共通語終助詞・ぜ、を使用すれば飛騨方言としては極めて不自然な言い回しになる、と言う事です。
この極めて不自然な言い回しを筆者なりに、飛騨方言アウトの言い回し、となづけ、また別項に記載しています。
本稿ではこの飛騨方言アウトについて以下に文法学的に詳述します。話の筋からはまず、飛騨方言セーフからお話ししましょう。
★飛騨方言おける終助詞・ぜ、の接続則
所謂、飛騨方言セーフの共通語終助詞・ぜ
男性が共通語終助詞・ぜ、を用いても、飛騨方言としては不自然でない、許容される言い回し、
飛騨方言としてセンスがある使用法を便宜上、飛騨方言セーフ、と定義しました。
そして筆者なりについに発見しました、その規則というのは
飛騨方言セーフの終助詞・ぜ、の接続則、とは、終助詞・ぜ、が明らかに飛騨方言であるもの、あるいは飛騨俚諺に接続すればセーフである
という簡単な規則でした。以下に詳述します。
動詞に接続する場合
例えば、動かすぜ、といえば共通語をわざとはなしているきざな奴、つまりは飛騨方言アウトの言い回しになって
しまうのですが、いのかすぜ、と飛騨俚諺動詞に変換しますと飛騨方言としては自然です。いわば飛騨方言セーフです。
別の例ですが、さしだすぜ、とでも言おうものなら共通語をわざとはなしているきざな奴ですが、やんだすぜ、と
俚諺動詞に変換しますと飛騨方言としては自然です。
形容詞に接続する場合
動詞と同じ規則です。方言形容詞に接続すれば飛騨方言セーフです。例えば、
ひどいぜ、といえば共通語をわざとはなしているきざな奴、つまりは飛騨方言アウトですが、
おぞくたいぜ、と言えば飛騨方言としては自然です。
助動詞に接続する場合
これもまた、動詞、形容詞と同じ規則です。
飛騨方言に特有の助動詞に接続する場合は飛騨方言としては自然で、飛騨方言セーフです。
これがまた簡単な規則で、飛騨方言に特有の助動詞といえばたった三個、や(だ、に相当)、そうや(そうだ、に相当)、
ようや(ようだ、に相当)、です。
例えば、こりゃプラスチックやぜ、 こりゃプラスチックやそうやぜ、 こりゃプラスチックのようやぜ と言えば
飛騨方言としては自然な言い回しで飛騨方言セーフです。
ところが、こりゃプラスチックだぜ、 こりゃプラスチックだそうだぜ、 こりゃプラスチックのようだぜ と言おうものなら
飛騨方言としては極めて不自然極まりなく、共通語をわざとはなしているきざな奴という事になります。
ところで助動詞について特別則がふたつあるようです。
その一、否定の助動詞・ぬ、の場合ですが、行かんぜ、は飛騨方言セーフです。
ところが否定の助動詞・ない、の場合ですが、行かないぜ、は飛騨方言アウトです。
つまりは飛騨びとの方言心理学的には、行かん、は飛騨方言であり、行かない、は共通語であるという意識があるのだとご理解ください。
その二、もうひとつの特別則は、推量の助動詞・まい、でしょう。別稿の通りですが、四段、上一、含めて全て未然形に接続すれば
飛騨方言セーフです(例、戦かわまいぜ、切らまいぜ)。
ところが四段、上一で終止形に接続しようものなら(例、戦かうまいぜ、切るまいぜ)たちまちに飛騨方言アウトです。
★飛騨方言における終助詞・ぜ、の接続の禁則
所謂、飛騨方言アウトの共通語終助詞・ぜ
一言でいいますと、直接的に共通語の動詞、形容詞、助動詞に接続すると、
飛騨方言としては極めて不自然という事になります。
でもこれって裏返せば、共通語を話すと飛騨方言にはなりません、と言う事じゃないか。
実は当たり前の事をただ難しく言い換えただけでした。ごめんなさい!
例えば、おりゃ海外に行くぜ、海は大きいぜ、波だぜ、満潮だそうだぜ、大潮のようだぜ、
とでも言おうものなら、飛騨方言としては極めて不自然極まりなく、共通語をわざとはなしているきざな奴という事になります。
それでもこの文例はひとひねり活用しますとたちまちに飛騨方言になります。山猿・佐七が、、
おりゃ海外に行くんやぜ、海は大きいんやぜ、波やぜ、満潮やそうやぜ、大潮のようやぜ
と言えば立派な飛騨方言です。
つまりは共通語形容詞に相当する俚諺形容詞がなくても、
(1)おおきいのだ、というように助動詞をつけて、形容詞を形容動詞にして、これを
(2)大きいのや、と飛騨方言の助動詞に変換して、飛騨方言に訳せば
(3)安心して、終助詞・ぜ、をつけて飛騨方言セーフになるという次第です。なあんだ、そうかあ。
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