HEAVEN 〜おいでませ万事屋 一名様御案内〜



「万事屋?」
 
ここは、『万事屋銀ちゃん』の一室。
仕事を斡旋するという名目で、銀時はをここに連れてきたのだ。
きょろきょろと物珍しげに室内を見回すに、新八がお茶を運んでくる。
 
「どうぞ。ええと……」
、です。あなたは?」
「志村新八です。一応、助手なんてものをやってますが」
「そう。新八くんだね。お茶、ありがとう。新八くん」
 
にっこりと微笑んで礼を言う
その笑顔に新八は頬を染めるものの、すぐに「いやいや、僕にはお通ちゃんが……」と頭を振っている。
この分ならば、新八は大丈夫だろうと、それを眺めていた銀時は胸中で安堵する。
が。問題は常に存在しているものだ。
 
って呼んでもいいアルか?」
「うん、いいよ。それじゃあ……」
「私は神楽ネ! そっちは定春ヨ!」
「そっか。神楽ちゃんに定春、だね。よろしくね」
 
何がきっかけなのかすら、わからないが。
気付いた時には、神楽がに懐き。
それどころか、人間と見れば噛み付くはずの定春でさえ、に懐き、鼻を摺り寄せている。
その定春の巨体に動じることなく笑っているも、それはそれで大物なのかもしれない。
が、が大物かどうかは、この際どうでもいい。
 
「それでは、銀ちゃんとどんな関係アルか?」
「どんなって?」
「まさか、『コレ』アルか?」
「え? ううん、違うよ」
 
神楽が小指を立てて問うと、は即座に否定する。
そのあまりの迷いの無さに、銀時は思わず頭を机の上に打ち付けてしまった。
だが、その銀時のショックに気付いている人間は、皆無である。
それどころか、追い討ちをかけるように神楽が続ける。
 
「なら安心したヨ。あんなチャランポラン、には合わないアル。
 糖尿持ってて甲斐性持ってないヨ。彼氏にしたくない男ナンバー1に間違いなく輝くネ」
「てめッ、神楽っ! そこまで言うかっ!!?」
「本当のことアル。人は図星を指されると怒るものヨ」
 
思わず飛び出た叫びも、神楽によって一蹴されてしまう。
ますます落ち込む銀時。
そこへ現れたのは救いの女神・
というよりも、そもそもの疑問を口に出しただけなのだが。
 
「ところで、『万事屋』って、どういうお仕事なの?」
 
が室内に入ってからきょろきょろと見回していたのは、他人の住まいに対する物珍しさもあったのだが、この『万事屋』というものがどういったものか、推測できるような手がかりを探していた、というのもあったのだ。
しかし、どうにも見当がつかない。
結局、ストレートに銀時に尋ねることにしたのだ。
銀時にしたところで、神楽と言い争うよりも、に話しかけられた方が嬉しいに決まっている。
 
「ま、頼まれれば何でもやるって商売だよ」
「へぇ。つまり、『便利屋さん』ってこと?」
「……イヤ、それはそーなんですけどね」
 
間違ってはいないが、それでも『便利屋』という響きには、何か物哀しいものがある。
まるで自分が、都合のいい時だけ利用される男のように聞こえるではないか。
少しだけ肩を落とす銀時には気付いていないのか、は納得したように頷いていた。
 
「じゃあ銀ちゃんは、街の人たちの役に立ちたくて仕事してるんだね」
 
そんなはずがない。
銀時が万事屋を経営しているのは、単に他に仕事が無かったから、というだけの話であり、世のため人のため、などという意識はまるで無い。
しかし、が「すごいねー、銀ちゃんは」と素直に感歎するのを聞き、銀時は、即座に否定しかけた新八と神楽の頭を殴りつけて黙らせた。
せっかく、いい方向に誤解されているのだ。解いたところで、得することなど一つも無い。
おまけに、誤解されている方が、より都合がいいのだ。今回は。
 
「なァ、。どうせならお前も、人の役に立つ仕事、したくねェ?」
 
意味ありげな笑みを浮かべて問う銀時。
しかしはその意図に気付く様子も無く、「う〜ん。そうだね」と頷いている。
 
「それでは銀サンが、人の役に立てる素敵な仕事を、に斡旋してあげよう」
「ほんと?」
 
にとっては、そもそもはそれが本題だったのだ。
期待に満ちた眼差しで銀時を見つめる
横では「アンタ、紹介するような仕事ないでしょうが」と新八が呟き、「銀ちゃん、に何させる気アルか!?」と神楽が喚いているのだが。
構うことなく、銀時は口を開いた。
 
「ここ」
「……え?」
 
きょとん、と目を瞬かせるに、銀時は重ねて言う。
 
「だから、ココ。
 よーこそ、『万事屋銀ちゃん』へ」
 
そう言って、銀時は満足そうな笑みを浮かべたのだった。



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逆ハーとか言いながら、万事屋面々しか出てきてないです。
そして次も、万事屋しか出ない予感……