HEAVEN 〜結局世界はいつも同じ〜



「旦那ァ。どうかしやしたかィ?」
「そういうテメェこそ何かあったのかよ」
 
犬も歩けば何とやら、と言うわけでもないだろうが、街中で偶然にも顔を合わせた沖田と銀時は、互いの顔色に何があったかを直感する。きっと自身も似たような表情をしているのだろうと自覚しながら。
しかし互いに、だからと言って馬鹿正直に言うつもりは毛頭無い。
 
「まァ、脈はありますからねィ、俺の方は」
 
振られたとは言え、「今はそういう風に考えられない」と断ってきたということは、今後の事はまだわからないということだ。
前向きに解釈する事で、沖田は辛うじて衝撃を堪えていた。
第一、泣きながら謝り続けるを前にしてしまえば、落ち込んでいる場合ではない。思わず沖田も謝り倒してしまい、結果、二人して互いに詫び続けるという奇妙な状態に陥ってしまった。何とも間の抜けたものだとは思うが、相手ならば構わないかと沖田は諦めている。
 
「イヤイヤ、脈があるのは俺の方にだっての」
 
一方の銀時も、諦めた訳ではない。
桂の余計な手出しさえ無ければ、今頃は晴れて恋人になっていたはずなのだ。
今はまだ時期尚早との事か。好きなのかもしれないと思われた以上、脈はあるのだから、今度は勘違いでは済ませられないようにしてしまえばいい。
そう自身を奮い立たせなければ、どこまでも落ち込んでいきそうな自分を銀時は自覚していた。
お互い、一歩も譲る気はない。
を振り向かせる自信はある。だがそれと同じくらいに不安もあるのだ。
いっそ目の前の男を亡き者にしたら、この不安は解消されるのだろうか。そんな考えまでもが二人の脳裏を過る。
だが幸運にもと言うべきか。二人のそんな思考が実行に移される前に、明るい声が二人の耳を打った。
 
「銀ちゃん! 総ちゃん!」
 
聞き間違いようのない声にハッとして振り向けば、案の定、買物帰りらしいが小さく手を振っている。
いつもであれば機嫌良く手を振り返すところだ。いつもであれば。
だが今は違う。精神状態も違えば、の隣に立っている人物もありえない。
手に提げた買物袋を見る限り、の買物に付き合っていたのだろう。容易く予想がつくが、それにしても仕事の最中に呑気な事で、と思わずにはいられない。
二人ともに自分たちの事は棚に上げ、各々腰に下げている得物に手をかける。人が落ち込んでいる時に、勝手にとイチャついている奴が悪いのだと。それが理不尽な思考だという認識は今の二人には欠片もない。ついでながら別にイチャついている訳でもないという釈明も通用しないだろう。今この瞬間、の半径1m以内に存在する男は全て問答無用で敵なのだから。
よって、目指すはただ一人。
 
「マヨラーの分際で図々しいんだよコノヤロー!!」
「死ね土方ァァァ!!!」
「いきなり何なんだテメーらはァァァ!!?」
 
突如として襲い掛かってきた銀時と沖田を何とか捌きはするものの、そんな土方の問いに答えが返ってくるはずもなく。
白昼の街中で始まった諍いに、道行く人々は束の間足を止め、またすぐに去っていく。はと言えば、ぽかんと成り行きを見守っている。単に事の展開についていけていないだけかもしれないが。
ともあれ、だからと言って特筆すべき事もなく。
晴れわたった空の下。今日も世間は概ね平和である。



<終>


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終わりです。本当に終わりです、これで。
逆ハーだから、結局オチはこんな感じで。誰とくっつくワケでもなく。
心残りと言えば高杉出せなかったなー、くらいですが、出たら出たでこれ以上のカオスになってたと思われるので、まぁ出ないままで良かったかな、と。
最終的に一番脈アリなのはヅラなんじゃないかと思ってみたり(笑)

それでは。長々とヤマ無しオチ無しイミ無しな連載にお付き合いいただきまして、どうもありがとうございました。