万事屋の電話が鳴った。
それは、ある人物の訃報を伝えるもの。
電話を置いた途端、銀時は万事屋を飛び出していた。
昔馴染みの老婆の死に、驚いたからではない。
いや、確かにそれにも驚いてはいるのだが。
「あのババア。死ぬなら死ぬって、予告してから死んでくれよ」
今更言ったところで、何がどうなるわけでもないが。
原チャリを走らせながら、思うことはただ一つ。
目的の家が近づくに従い、昔馴染みの顔に声をかけられるも、適当にあしらいつつ。
ようやくたどり着いた家は、しんと静まり返っていた。
もう葬式は終わったのだろうか。
逸る気持ちを抑えられぬまま、銀時は家の扉を開け放つ。
家の中には、簡素な祭壇。飾ってあるのは、昔馴染みの老婆の写真。
その前には棺と。たった一人、ちょこんと座っている少女―――
「―――」
呼びかけると、少女は弾かれたように振り返った。
驚きに見開かれた目。そこに涙が溢れ出したのは、一瞬の後だった。
「銀ちゃん…銀ちゃん……っ!」
泣きながら腕の中に飛び込んできた少女の頭を、銀時はそっと撫でてやる。
葬儀の段取りなどは、近所の人間が取り仕切ったのだろう。
けれども、養い親の死は、それだけで幼い子供には重過ぎる。
それをこの少女は、小さな体で懸命に堪えていたのだ。
「一人でよく頑張ったな、」
腕の中で泣きじゃくる少女に、銀時は思う。
この少女は――この小さな妹は、自分が守ってやらねばならないのだと―――
大人と子供の理想関係
「というワケで、、今日からここに住むことになったから」
万事屋に連れてこられたは、けれども銀時の後ろからなかなか出てこようとはしない。
顔を半分だけ覗かせるものの、新八や神楽と目が合うと、すぐさま引っ込んでしまう。
あまりの人見知りぶりに、純粋培養で育てたのが悪かったかと、銀時はそんなことを思う。
だがさしあたっては、新八と神楽くらいにはそれなりに懐いてもらわなければ困る。
そのあたりを二人に言い含めようとして―――しかし二人が、何やら軽蔑の眼差し的なものを向けていることに気付いた。
「オイオイ。何ですか、その目は―――」
「新八。銀ちゃんがとうとうポリゴンに走ったネ」
「ポリゴンじゃなくてロリコンだよ、神楽ちゃん。
いつかは犯罪に走るかもとは思ってたけど、まさかこういう形なんて」
「銀ちゃんのこと、信じられなかったけど信じたかったアルヨ。無理だけど」
「申し訳ありません、父上。僕がついてきてしまった男は、こんなに腐った人間でした……」
「ホント、腐ってるアル」
「ああ。腐ってる腐ってる。お前らの頭がな」
一体どういう目で人を見ているのかと問い詰めたくなったが、それより先に後ろから着物を引っ張られる。
振り返ると、がきょとん、と目を瞬かせていた。
「銀ちゃん。『ろりこん』って、なぁに?」
「……イヤ、な? は知らなくていーから。むしろ知ったらダメだから。
はアイツらと違っていい子だから、銀サンの言う事、ちゃんと聞けるよな?」
目を合わせてそう言い聞かせると、はコクンと頷く。実に素直である。
やっぱりババアのところで純粋培養させてよかったと、銀時は心底思う。
少々、年不相応に幼い感はあるが、下手な育ち方をされるよりはよほどマシというものだ。
こんなに素直で可愛らしいには、ろくでもない単語など一つたりとて覚えさせるわけにはいかない。
兄馬鹿だと自覚しつつ、銀時は新八と神楽の二人に向き直った。
「あのな。コイツは俺の妹。可愛い妹だよ、文句あっか」
「妹って……どっこも似てないじゃないですか」
「白々しい後付設定に聞こえるネ。今更」
相変わらず、新八と神楽の視線は軽蔑に満ちている。
変わったことと言えば、後ろのが身体を強張らせたことくらいか。
どうもよろしくない方向に事態が向かっていることに、銀時は内心焦りだす。
「バッカ。天パーを可愛いに遺伝させるわけねェだろ、この俺が」
「銀さんがどう遺伝子を捻じ曲げたところで、結局それは親の遺伝で銀さんの努力は意味が無いんじゃ」
「バカネ。バカがここにいるネ。
、そんなのにくっついてたらバカが移るネ。こっちに来るヨロシ」
神楽に手招きされ、が困ったように銀時の顔を見上げる。
その背中を軽く押してやると、はおずおずと足を踏み出す。
待ちかねたかのように神楽はその手を引き、「これは定春ネ! 定春、に挨拶するアル!」とを定春のところへと連れて行った。
自分よりも年下の少女に、妹ができた気分にでもなっているのか。
年も近いことであるし、も神楽には懐くだろう。
一先ずは安堵した銀時だったが、すぐに新八の腕を取り、釘を刺すことを忘れはしなかった。
「新八く〜ん? 頼むから、もう二度と俺とが似てないなんて言うんじゃねェぞ」
「はい?」
訝しむ新八に、銀時はの様子を窺いながら、そちらには聞こえないような小声でそれに答える。
「俺と、血は繋がってねェんだよ。アイツ、捨て子だったからな」
「……それ、ちゃんは」
「さァな。アレで結構聡いとこもあっから、薄々は勘付いてるかもしんねーけど。
でも絶対に言うんじゃねーぞ。だって知りたくも言われたくもねーだろ。んな事は」
「は、はい……」
先程の「似ていない」発言に身体を強張らせたことを考えれば、薄々どころか、ほぼ勘付いているのかもしれないが。
それでもが何も言わない以上、銀時から何かを告げるつもりもない。
しかし、それが周知の事実となってしまった場合。二人の間がぎくしゃくしてしまうであろうことは容易に予想がつく。
まるで薄氷の上を歩いているような兄妹関係だと、銀時は胸中で苦笑する。
そんな銀時の胸中を知ってか知らずか。は無邪気な笑顔で「銀ちゃん、銀ちゃん!」と駆け寄ってきた。
「定春、すごいね! すっごく大きいね!」
「そっかそっか―――、ここ気に入ったか?」
「うん! だって、銀ちゃんとずっと一緒に居られるんだよね?」
だから大好き!
そう言うの頭をくしゃりと撫でてやると、ますます嬉しそうな顔では銀時に抱きついてくる。
思えばは、銀時が攘夷戦争に参加してから今までずっと、近所に住んでいた老婆に預けられていたのだ。
時折は会っていたとは言え、甘えたい盛りに存分に甘えさせてやれなかった分、今は甘えさせてやりたい。
と言うよりもむしろ、銀時の方がを甘やかしてやりたくてたまらない。
今まで離れていたとは言え―――血が繋がっていないとは言え、たった二人きりの家族なのだ。
たとえいつかは、真実を面と向かって告げることになろうとも―――
「新八。やっぱり銀ちゃん、カネゴンね」
「ポリゴンだって。あ、違った。ロリコンだってば、神楽ちゃん。それじゃあ怪獣になっちゃうよ、銀さんが」
「怪獣の方がマシネ。犯罪者よりは」
「確かにそれはそうだけど」
だから、と言う訳でもないのだが。
耳に入る二人の会話は極力無視する方向にして。
まずはを思いきり可愛がることが、先である。
―――それは、万事屋に小さな住人が一人増えた日の話。
<終>
水成さまの、22300hitリクでした。
内容は、銀さんの妹設定(12歳前後)ということで。
すみません。私が書くと、明らかにロリです。12歳どころじゃありません。ティーンですらない気が(汗
何やらシスコン&ロリコンへの下り坂を、ものっそい勢いで転げ落ちていきそうな銀さんが、書いててたまらなくツボに来ました。
そんなアホなの私だけですか。すみません。
ロリコンロリコンと、アホ話ではありますが。水成さま、リクありがとうございましたー!
……見放されなければ、幸いです。イヤマジで。
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