大人と子供の理想関係 〜わからない時にはとりあえず〜



は年の割にしっかりした子供だというのは、周囲の大人たちに共通した認識である。
事実、子供らしい我儘も滅多に口にせず、家事手伝いを当然のようにこなす様は、兄である銀時をして自慢の妹と称させるもので、逆に銀時の方がそんなを甘やかしたくて仕方がないほどだ。
だが同時に、成長が遅いのか、は実年齢よりもやや幼く見える。だからこそ余計に周囲はを可愛がりたいと思ってしまうのだが。
しかしこれはあくまで大人から見た話。同年代の子供たちにしてみれば、必ずしもそうではないものだから。
 
「てめー、誰に断ってここのブランコ乗ってんだ?」
「この辺の公園はなァ、かぶき町の帝王よっちゃんの縄張りなんだよ。勝手に遊んでんじゃねーよ」
 
小柄で大人しいに、子供たちが何の遠慮をするはずもない。
難癖をつけられても何を反論することもできず、ただ困ったように動けずにいるに、救いの手は存外早くにやってきた。
 
になに言い掛かりつけてるアルか。それにここいらのブランコはかぶき町の女王神楽のものだと、何度言ったらわかるネ」
 
バックリと。
いつぞやのように定春に頭から噛みつかれて、を詰っていた子供たちが慌てている間に、神楽は「大丈夫アルか? 何もされなかったアルか?」と心配そうにに駆け寄る。
神楽との待ち合わせ場所がこのブランコだったものだから動けなかっただけで、やってきた神楽に安心したはようやく笑顔を見せ、頷きながらブランコから飛び下りた。
にしてみれば、あとは神楽と遊べれば十分ではあったのだが、神楽の方がそうはいかない心境だったらしい。
ようやく定春から解放されて安堵した子供たちの前に仁王立ちで立ちはだかる神楽。
 
「お前ら、に手ェ出してタダですむと思ってるアルか?」
 
別段、手を出されたわけではない。事実、神楽の後ろではキョトンと目を瞬かせている。
だが実際に手まで出されずとも、が困っていたことは確かであり、神楽にしてみればそれだけで報復に価する理由となる。
般若の笑みで拳を鳴らす神楽の姿にかつてない恐怖を感じた子供たちは一斉に逃げ出すものの、簡単に逃がす神楽ではない。
 
「逃げられると思ってんのかァァァ!! 二度とに近寄れないようにしてやるネ! に言い寄るなんて1億2000万年早いアル!! には心に決めた相手がいるんだヨ!!!」
 
捕まえた一人に馬乗りになって胸ぐらを掴みながら「ネ?」と神楽が同意を求める。どうやらが因縁をつけられた事よりも、単に男がに近付くのが気に入らなかっただけらしい。
だが同意を求められても、いきなりではも困ったような笑みを浮かべることしかできない。
そして。
 
―――銀ちゃんの、こと?」
 
恥ずかしそうな笑みでが口にした名前に、神楽はそのまま凍りついたように動かなくなり……
 
 
 
 
 
 
に手ェ出すとはいい度胸ネ、この天パァァァ!!!」
「は? え? ちょっ、おまっ、いきなり何をぅぎゃァァァ!!!」
 
帰ってくるなり殴りかかってきた神楽を避ける暇もなく、銀時は殴打の嵐に見舞われることになった。
が、何やら怒り心頭に来ているらしい神楽には何を聞いたところで無駄だろう。
神楽の暴行を止めることは無理だと判断した新八は、せめて理由だけでも知ろうかと後から入ってきたに顔を向ける。
しかしそのも困った表情を浮かべているということは、こちらに聞いても無駄なのだろうか。
試しに聞いてはみたものの、やはりは首を傾げるばかり。
ただ。
 
「あのね。よくわからないけど……銀ちゃんの名前言ったら、神楽ちゃん怒っちゃったの……」
 
どうしよう、と今にも泣き出さんばかりの表情を見せるは、きっと自分が神楽を怒らせたのだと思っているのだろう。
しかしの責任でないことは明白だ。
困り果てているに「大丈夫だよ。アレは一種のスキンシップだから」とかなり苦しい言い訳をしてみせ、新八はこっそりと嘆息する。
理由は相変わらずわからない。わからないが……とりあえず、が兄である銀時を慕っているのが神楽には気に入らないのだろうことは何となくわかった。と言うよりも、その点については今までも薄々感じてはいたことだから、今回はそれを結論付けるための材料が一つ増えただけに過ぎない。
何にせよ、せめて当の本人の前での暴挙は慎んでもらいたいものだ。わけのわからないままに責任を感じてしまったがこうして泣きそうになってしまうのだから。
 
「そうだ、ちゃん。姉上が小さい頃の着物で良ければ好きなの貰ってくれって言ってたから。今から行ってきたら?」
「でも……」
「ああ。あの二人はしばらくああだよ。それより姉上も夜には仕事だから、今の内に行った方がいいと思うんだ」
「う、うん……」
 
躊躇っていたも、お妙が待っているとの言葉に後ろを気にしながら万事屋を出ていく。
それにも気付いていないのか、神楽は未だ銀時に対する暴行を続けている。
止めるべきかとも思うものの、かと言って新八に神楽を止める自信は毛の先程もない。できることは銀時の無事を祈ることくらいか。再び嘆息した新八は、やや早めの夕飯の準備をするために喧騒を後ろに台所へと篭ったのだった。



<終>



何やらこのシリーズのネタがわさわさ湧いてくるんですが。
時間が欲しいです。文才も欲しいです……

('07.07.28 up)