大人と子供の理想関係 〜誕生日には温もりを〜
誕生日。
それはただ単に年を一つ重ねるだけの日であり、それ以上でもそれ以下でもない。
小さい子供であれば、成長を祝う日という意味づけもできるのであろうが、いい年をした大人になってみれば、そんな意味づけすらすることはできない。
銀時にとって誕生日というものは、その程度のものでしかない。
だがここにが絡んでくると、ガラリと変わって誕生日は意味ある日付となってくる。
一ヶ月も前から「銀ちゃん、お誕生日に何か欲しいものある?」と事あるごとに問いかけてくるに正直辟易しなかったと言えば嘘になるが、結局のところ許してしまうのはが可愛いただ一人の妹だからに他ならない。
それでも一度だけ、どうしてそんなに誕生日を祝いたがるのかと尋ねたことがある。
問いかけられたは困って口を閉ざしてしまった。それはそうだろう。子供にとっては、誕生日はただそれだけでめでたい日であり、漠然と祝いたいだけなのだろうから。
だがはなりにきちんと考えたらしい。答えを聞いたのは、問いかけてから数日後。
「あのね。銀ちゃんがそばにいてくれて嬉しいの。だから銀ちゃんが生まれた日は特別で、それで、いてくれてありがとうって、そう言いたいの」
だから誕生日お祝いしたいの。とたどたどしい言葉で答えるに、銀時が胸を突かれたのは言うまでも無い。
生まれてきてくれてありがとう―――誕生日に贈る言葉としては割合ありふれたものではあるが、それでもが自分なりに懸命に考え辿り着いた理由なのだ。にそう思ってもらえるならば、誕生日も悪いものではない。
結局のところに甘いだけだという認識はあるが、悪い気はしない。
10月10日。
そんなわけで銀時含め万事屋一同は、珍しくも外食するために揃って外を歩いていた。
曰く「誕生日はレストランで美味しいものを食べる日」なんだそうだ。
一体誰に植え付けられた知識なのだかわかりはしないが、どうやらは頑なにそう信じているらしい。レストランの帰りにケーキを買って家で食べるのが正しい誕生日の過ごし方だと言い切るのだ。
おまけに飲食代までが出すと言い張っている。そんな金をが持っているはずがないのだが、これにはどうやらお登勢が一枚噛んでいるらしい。道理でが最近よく出かけると思ったら、お登勢のところで掃除なり何なりの仕事をして駄賃を貰っていたようなのだ。
もちろんがそう言ったわけではない。キャサリンが家賃を回収に来たついでに、罵りながら「ヨク働クトハ雲泥ノ差デスネ」と吐き捨てたものだから、お登勢を問い詰めたらあっさりと白状したのだ。その折、「お前がだらしないからがこんな事しようと思うんだよ」と釘はしっかりと刺されたのだが。
経緯はともあれ、が自分のために頑張ってくれたという事実が、銀時にはたまらなく嬉しい。欲を言うならば兄妹水入らずで外食を楽しみたかったのだが、が皆で行こうと当然のように言うのだからこればかりは仕方が無い。
和気藹々と、向かう先はファミリーレストラン。誕生日を祝うには侘しい感じが拭えないが、一行全員の好みを満たそうと思えば、自ずと場所は限定されてしまう。何より、あまり高価な店ではが支払えるかどうか。
そんな配慮をに悟らせぬようにそれとなく誘導し、向かうファミレスまであと少し―――
「お、じゃねェかィ!」
「総悟くん!」
―――どうしてこうもタイミングを見計らったかのように現れるのか。
空気を読め、むしろ伝説の『読める空気』を探す旅に出てそのまま二度と戻ってくるな。そう言って追い払ってやりたくなるものの、嬉しそうにが手を振る姿を見てしまうと、銀時は何も言えなくなってしまう。
きっと沖田もそれをわかっているのだろう。飄々とした表情にバカにされている気がして、銀時はますます腹立たしくなる。
すぐ横では今にも沖田に飛び掛りかねない神楽を新八が必死になって押さえ込んでいる。きっと神楽も銀時と同じように感じているに違いない。
だが当のはもちろんそんなことは微塵も感じてはいないのだろう。にこにこと楽しそうに沖田と喋っている。
その沖田が、不意に銀時へと顔を向けた。
「そういや旦那、今日が誕生日でしたねィ」
「どうして知ってんだよ、お前が」
「私が話したんだけど……」
ダメだった? などと不安げな面持ちでに聞かれれば、駄目だなどと言い返せるはずもなく。
言葉に詰まる銀時を、やはり沖田は面白そうに眺めている。銀時にしてみれば実に面白くない。
何の返答もしない銀時にますます不安を抱いたのか泣きそうな表情を見せるに、慌てて「別に構わねーよ。ただちょっと驚いただけなんだよ」と宥める羽目になる。
ようやく安心したように笑みを見せるだったが、そのことに安堵したのも束の間。
沖田がを引き寄せ、何やらごそごそとしていたかと思うと。
「旦那。じゃあコレが俺からのプレゼントってことで、ひとつ」
銀時の方を向くの両肩に手を置き、沖田がにやりと言葉を添える。
一体どこから取り出したというのか。事前に用意していたことを考えると、何もかもが沖田の計算の内だったとしか思えないのだが。
の頭上では、たった今沖田が可愛らしく結わった真っ赤なリボンが、ゆらゆらと揺れていた。
意味などわかっていないのだろう。はきょとんと目を瞬かせるばかり。
だが銀時には痛いほどにわかる。その意味が。
反射的に怒鳴りつけたくもなったが、わけがわからないといった面持ちできょときょとと二人の顔を交互に見やるの存在に、何とかそれだけは思いとどまる。いきなり怒鳴り出したら驚いてしまうに違いない。
心の中で深呼吸を繰り返し、不思議そうに銀時を見つめるのその姿に何となしに癒され。
ようやく落ち着いた銀時は、最後にもう一度深呼吸をする。吐いた息は溜息へと変わったが。
「お前さァ……」
「いらねェんですかィ?」
「イヤ、だからさァ」
「いらねェってんなら俺がありがたく貰っておきますぜィ?」
「いる! いります!! って言うか元々俺のだろ!!!」
「ちょっ、落ち着いてってば神楽ちゃん!!」
「離すネ新八ィィ!! あの二人今の内に殺らないとのためにならないネ!!!」
深呼吸は結局無駄に終わってしまった。
いいように遊ばれていると自覚しつつも、銀時は引っ手繰るようにしてを手元に引き寄せ抱きしめる。そんな二人のやり取りに怒り心頭の神楽を、新八が羽交い絞めにしてどうにか抑えている。
そして場の空気から一人取り残された感のあるはと言えば。
銀時と沖田のやり取りに、相変わらず不思議そうに首を傾げてはいたものの。
自分を大事そうに抱きしめてくれる銀時の腕が嬉しくて、その腕をきゅっと掴むと笑顔を浮かべたのだった。
<終>
書いてる途中でわからなくなりました。スミマセン。限界です。
要するに、「そばにいてくれてありがとう」的な、なんかそんな雰囲気が……感じられたらいいなと思うものの思うだけでそれは結果に結びついていないというか何このグダグダ感。
('07.10.10 up)
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