「銀ちゃん。今度の日曜日、お出かけしてもいい?」
「ん? いいけど、どこ行くんだ?」
「あのね、動物園! 晋ちゃんが連れてってくれるんだって!」
「………………あのヤロー」
 
 
 
 
大人と子供の理想関係 〜かわいいは、せいぎ!〜



 
好天に恵まれた、日曜日の空の下。
家族連れで賑わう動物園。
その中に混じって、明らかに異質な三人がいた。
正確に言えば混じってはいない。浮いている。その異質さが人目を引き、とてもではないが家族連れの中に溶け込むような様子には見えない。
三人の内の一人は、見た目は十を過ぎた頃合の少女。彼女だけならば、似つかわしい場所であったのかもしれない。
だが残る二人。少女を挟むようにして対峙する大の男が二人。これだけでも奇異な三人組と映るであろうに、更に加えて一人は人目を引く銀髪に、腰には木刀をぶら下げて。更にもう一人は片目を包帯で覆った隻眼で、派手な着流し姿はこれもまた人目を引くものだ。
異質の上に更に異質を塗り固めたかのような三人。故に人々は、極力その三人からは視線を逸らしていた。君子危うきに近寄らず。奇異の過ぎる存在には関わらない方が身のためだ。
とは言え、そんな人目を気にするような三人ではない。
少女―――は、普段であれば他人の視線をやけに気にするきらいがあるが、今はそれよりも動物園に来られたことが嬉しくてならないのか、にこにこと笑って手に持った動物園の案内マップを見つめている。
そして銀時や高杉にしたところで、他人の視線などそもそも興味が無い。興味があるのはただ一つ。の存在だ。敢えて言うならば、目の前の男の抹殺方法にも興味はあるが。
 
「なんでテメーも来てんだよ」
「てめェこそ、なに勝手に人の妹誑かしてんだよ」
「妹を動物園にも連れてこられねェような兄に言われたかねーよ」
「ロリコンの指名手配犯にも言われたかねーよ」
 
互いに目を据わらせ殺気立つその様相に、親子連れは逃げるようにして周囲からいなくなる。
ただ一人だけは、そんな殺気に気付いていない。幼少時代から慣れすぎて、それが当たり前になっているのかもしれないが。
その真偽はともかくとして、原因もにあれば、その殺気を和らげる方法もの存在にある。
案内マップをひとしきり眺めて満足したらしいは、それを大事そうに巾着にしまうと、横に立つ男たちへと手を伸ばした。
右手は銀時の手を、左手は高杉の手を、きゅっと握り締めて。
 
「あのね、あのね! 最初にゾウさん見に行きたいの!」
 
とびきりの笑顔でおねだりされては、男たちは叶えない訳にはいかない。
周囲が逃げ出すほどの殺気はどこへやら、握られた手をそっと握り返し、がねだるままにゾウのいる檻へと向かったのだった。
もちろん互いに、のもう片方の手を握る男に対して密かに抱く殺意は、消えはしなかったが。
 
 
 
 
「完全に危ないヤツらネ、アレは」
「僕らも人のこと言えないと思うよ、この状況じゃ」
「なんでお前らがいるっスか」
 
三人が歩いていったその背後の茂みから、がさりと上がる影。
突如植え込みから人が現れたことに周囲の人間は驚いているが、当の本人達は他人の目などまるで気にしていない。
それよりも気にすべき事があるのだから。
 
「ケダモノ二人がに襲いかかろうとしたら瞬殺ネ。そのために来たアル」
「晋助様がそんなことするわけないっス! あの子は晋助様にとって妹みたいなモンっスよ!!」
「イヤ、それ言ったら、ウチの銀さんにとっては正真正銘の妹なんですけどね……」
 
それでも信用ならないのは何故だろうかと、新八は不思議でならない。が、信用ならないものは信用ならないのだ。
高杉と動物園に行くのだと嬉しそうにしていたに、銀時は「なら俺も行くか」とさも当然のように言ってのけた。にとっては大好きな兄、一緒に行けるならやはり嬉しいのだろう、笑顔で頷いていた。
しかし嫌な予感がしたのだ。
こっそりついてきてみれば案の定、銀時と高杉とが火花を散らしている。あの様子を見る限り、高杉もまた銀時と同じ程度にはのことを可愛がっているようだ。
それはつまり、信用ならない人間が二人、のそばについているということだ。
おまけに鬼兵隊の来島また子までもが、新八や神楽と同様に三人の動向を監視している。こちらの意図は、「敵対勢力が現れた際に高杉を守るため」というものではあったのだが、その実「ちゃんに手を出そうとしたら殺してでも止めるっス。すみません、晋助様。でも晋助様がロリコンになるのだけは耐えられないっス」などという本音があったとかなかったとか。
ともあれ、いつ何が起ころうとも対応できるよう、神楽もまた子もそれぞれに戦闘態勢を整えている。一人新八だけが、そんな二人の後ろでこっそりと溜息をついていた。この二人を止められるとはとても思えない。新八にできることは、ただ何事も無く今日一日が終わるのを祈る事のみだった。
 
 
 
 
 
  *  *
 
 
 
 
 
後ろから三人が尾けているとは露知らず。
にしては珍しく、我侭たっぷりにあれが見たいここに行きたいと銀時と高杉を振り回す。
勿論、そんなに二人とも腹を立てるはずもない。元々、我侭など口にしないだからこそ、甘やかしたくてならないのだ。これくらいの我侭など、我侭のうちに入らない。
とにかくが楽しむことが大事、さえ良ければ自分のことは二の次だ。もう一人の存在は最低ライン、どころかそこから更に穴を掘って突き落としてやりたい程だ。
だが流石にの前ではそんな感情を出すことはしない。表面上だけでも友好的に振舞わなければ、に気を遣わせたり悲しませたりするだろう。
すべてはたった一人の可愛くてならない少女のため。のためであれば、自身の感情を誤魔化す事など造作も無い。
そのは今、二人の目の前で美味しそうにお子様ランチを頬張っていた。
昼時。食堂に入ってメニューを開けるなりお子様ランチを指差して、「これ食べたいの!」とおねだりするような目を向けられたのだ。即行で注文したのは言う間でもない。
12歳以下のお子様のみ、という、自身が子供である事を認めるようなメニューではあるのだが、は構わないらしい。幸せそうに食べる姿は、見ている二人をも幸せな気分にしてくれる。
これで余計な人間がいなければ、とは思うものの、今はの笑顔を堪能することが重要だ。
 
「? これ、食べたい?」
 
あまりにもじっとを見ていたせいだろうか。気付いたが、小首を傾げながら問いかける。
手にしたフォークの先には、一口大に切り分けたハンバーグ。
正直、ハンバーグはどうでもいい。かなりどうでもいい。どうでもよくないのはの存在であって、それ以外はどうでもいい。
だがこの状況。もしここで頷いたとしたら。
という訳で、銀時は試しに頷いてみた。9割方展開を確信した上での行為ではあったが。
 
「うん、いいよ! はい、あ〜ん」
 
少しだけ恥ずかしそうに、がそのまま椅子から腰を浮かせてフォークを差し出してくる。
やはりハンバーグはどうでもいい。がフォークを差し出すその仕種が可愛くて仕方ないのだ。ハンバーグがハバネロだったとしても、今の銀時は喜んで口にする自信があった。
のだが。
フォークの先が口に入ろうかという瞬間。
視界が反転したかと思うや、続いて頭部に衝撃が走った。
 
「銀ちゃんっ!?」
「何してんだ、テメェ」
 
ガタン、と派手な音も同時に聞こえたということは、椅子ごと転がされたということか。
誰に、などとは考える間でもない。
痛む頭を擦りながら身を起こせば、は心配そうにオロオロしている。そして高杉は、ニヤニヤと笑っている。
確信した銀時は、起き上がり様、高杉が座っていた椅子の脚を引っ掛けてやった。勿論、からは見えないように。
 
――っ!?」
「晋ちゃんっ!?」
「あー。こりゃアレだな。椅子が悪いな、椅子が。古いんじゃねーの?」
 
わざとらしく、如何にも自分は悪くないと銀時はアピールする。
それはつまり、自分が転んだのも椅子のせいであると言って高杉の責任を不問にしているようなものなのだが、にはそう思わせておいた方がいいのだ。このまま動物園を楽しませてやるには。
実際、はそれを信じたらしい。そわそわと落ち着き無く、自分自身も立ち上がる。椅子が壊れて転んだらどうしよう、と思ったのだろう。
しかし立ったまま物を食べるのは行儀が悪いと、そう躾けられている。でも出されたご飯を残すのも行儀が悪いと言われてきた。ならばこれは一体どうすればいいのだろう。
食べかけのお子様ランチをどうするかで一杯一杯だったに、睨み合う姿を目撃されなかったのは、二人にとっては幸いだったのだろうか。そして。
 
 
 
 
「バカあるネ」
「うん……バカだね。二人とも」
「スミマセン、晋助様……でも私もバカだと思うっス……」
 
物陰から様子を窺う三人が呆れきったように溜息を吐く姿を見ずに済んだのも、銀時と高杉の二人にとっては幸いだったのかもしれない。
 
 
 
 
 
  *  *
 
 
 
 
 
ゾウもキリンもペンギンもシロクマも、その他諸々見て回った。
こういう場所においては子供の体力と言うのは無尽蔵なのか。普段は大人しいばかりのにあちこち引き回され、正直疲れたというのが二人の本音ではある。
だがその疲労も、の笑顔一つで帳消しになるのだから大した問題ではない。
園内に設置されたベンチの両端に腰を下ろして、二人はぐったりとしていた。
二人の間の微妙な空間は、隣り合って座りたくないという意思は勿論の事。ついさっきまでが座っていた名残でもある。
ソフトクリームを食べながら「今度はどこに行こうね?」と目を輝かせて案内マップを膝の上に広げていたは、ゴミを捨てるついでに手も洗ってくると、駆けて行ったところだ。
 
「……オイ」
「あァ?」
、ますます可愛くなったなァ……」
「手ェ出すんじゃねーぞ、ロリコン」
「シスコン且つロリコンなヤローには言われたくねーよ」
 
互いに目を合わせぬまま、それでも両者の間には火花が散っている。
何かを感じ取ったのか、周囲にいた人々はそそくさとその場を離れていく。だが勿論、二人がそれを気にする事はない。
 
「……には、話したのか?」
「話してねーよ……でも、知ってんだろ、多分」
 
何を、とは高杉は口にしなかった。だが銀時もまた、それを問うことはしなかった。
問わずとも、言わんとすることはわかる―――が銀時とは何の血の繋がりもない、捨て子だったという事実。
今までそれを匂わすような事を口にしたことは銀時には無い。その事実を知る高杉らも、の前でその話をしたことは無い。
全てはのため。まだ幼いに、辛い思いをさせたくないがため。
だが周囲の努力を嘲笑うかのように、事実は幼いの知るところになった―――のだろう。
から直接聞かれた訳ではない。それでも、の態度が何時だったかを境に微妙に変わった事に、銀時は気付いていた。
確証は無い。けれどもきっと、は知っている。少なくとも何かを察してはいるはずだ。自分と銀時とが血の繋がりのない、兄妹関係であることを。
一体どこから漏れたのか。大人たちの心無い噂話でも聞いてしまったのか。おそらくはそんなところだろう。
出来ることならば、知らないままでいさせたかった。そんな事は不可能だとわかっていても尚、それでも、まだ幼いには知られたくなかった。
詮無い事とわかっていつつ、銀時の口から溜息が漏れる。それに対し、高杉が何かを言う事はなかった。高杉にしたところで、思いは同じだ。には、何の憂いも無く幸せであって欲しかったのだから。
こんな時世だ、だけが不幸だとは言わない。むしろ傍から見ればは幸せな方なのだろう。生活に困ることもなく、何より、甘やかしてくれる人間が周囲には山のようにいるのだから。
しかし幸せなど、他人が測って決めていいものではない。比べて、それで済むものでもない。
自身も、自分が幸せだと思っているかもしれない。それでも、もっともっと幸せにしてやりたい、と。そう思ってしまうのは、幼い頃からを見てきた人間の独り善がりなのかもしれないが。
 
―――にしても遅ェな、
「バッカ。大の方なんだろ、大の方」
で下ネタ口にしてんじゃねェ!」
「うっせーよ。いくらが可愛くたって、大もするし屁もするさ。俺はそんなところも含めてが可愛くてしゃーねェんだよ。だからは俺のだ」
「誰がテメーのだ!? テメーなんぞに育てられたらが可哀想すぎるんだよ!」
「可哀想じゃねーよ! 誰が何と言おうとも、が一番大好きなのは俺だっての!!」
 
再び散る火花。
だがそれも束の間。周囲のざわめきに、互いに視線を周囲へと向ける。
騒ぎすぎて注目でもされたのかと思いきや、そういう訳ではなかったらしい。家族連れは慌てたように子供を抱えて駆けていき、そうでない者は逆方向へと駆けていく。
一体何事か。顔を見合わせている間にも、周囲の話が途切れ途切れに耳に入る。曰く「攘夷浪士が」「幕府に要求」「人質が」「女の子が」―――
それらの意味を吟味する間もなく、銀時と高杉は駆け出していた。二人の脳裏に過ぎったのは最悪の事態。できれば間違いであってほしいという願いは、人だかりを抜けた先であっけなく散ってしまった。
 
!!」
「銀ちゃんっ! 晋ちゃんっ!」
 
最悪の事態だった。
身元がわからないようにか、顔を布で覆った男が二人、猿山の前に立っていた。場合が場合でなければ笑いたいところだ。話を聞く限り攘夷浪士らしいが、動物園でどんなテロをすると言うのか。まるで似つかわしくない。
だが笑えない事に、男の一人が拘束している人質が、よりにもよってだった。おまけにもう一人は、手にした銃をの頭へと押し付けている。
そんな状況にが怯えて今にも泣きそうな事が、距離を置いたここからでもわかる。
これ以上ないまでに、最悪だった。
 
「オイ。アレ、攘夷浪士だってんならてめーの仲間だろ。何とかしろよ。てめーのケツはてめーで拭けって」
「フザけんな。あんなバカ知らねェよ。大体ウチのヤツらには、に手ェ出したらぶッ殺すって言ってあるぜ」
「だったらまずお前が切腹な」
「その前にテメーをぶった斬ってやるよ」
「あァ? やれるもんならやってみろよ」
「って貴様等この状況をわかってるのかァァァ!!?」
 
攘夷浪士そっちのけでいがみ合いを始めた銀時と高杉に、キレたように男の一人が叫ぶ。
同時に周囲から起こる悲鳴。見回せば、人垣の更に外側で、武装した浪士たちが銃口をこちらに向けて取り囲んでいるようだ。
つまり、だけではなくこの野次馬も人質となった訳だ。
だからといって、取り立てて焦りが増す訳でもない。そもそもを人質に取られた時点で、焦りは最高点に達している。これ以上どう焦れというのか。
と言っても、焦ったのは一瞬。状況がわかれば、焦る必要はどこにもない。
 
「その台詞、そのまま全力で打ち返させてもらうわ」
「テメーこそ、今の状況わかってるのか?」
 
銀時と高杉がそれぞれ口にした瞬間。
ダダダダダダッ、と周囲に銃声が響き渡った。
悲鳴をあげ蹲る野次馬。何事かとうろたえる攘夷浪士二人。そして。
 
! 目ェ閉じてろ!!」
 
言うが早いか、一瞬の隙をついて銀時が木刀を投げつける。と同時に駆け出す高杉。
かつての戦争を戦い抜いた身にとって、この程度の輩などは取るに足らない相手である。
次の瞬間には、銃を構えていた男は顔面に木刀を受けて倒れこみ、を拘束していた男の喉元には鈍く光る刃が押し付けられていた。
野次馬の周囲にいたはずの浪士たちは全員倒れ伏している。一瞬の間に形勢逆転。呼吸するだけでも喉を掻き斬られそうな恐怖と殺気に、ようやく男は自分が相手にしていた人物の正体に気付く。
派手な着流しに隻眼という、あまりにも特徴的な外見。飢えた獣のように鋭い眼光、そして圧倒的な強さ―――
 
「き、貴様っ、高杉、晋」
「もう大丈夫だぞ。銀さんが助けに来たからな、銀さんが。そこで危ねェ目つきしてるヤツは関係ないからな」
「怖かったよなァ。でももう大丈夫だぜ。俺がいればもう何も心配いらねーよ。俺がいればな」
 
倒れた男が気絶しているのを確認した銀時がを抱き寄せようとした瞬間、高杉は目の前の攘夷浪士を蹴り倒して自身もまたに駆け寄った。
面白みも何もない攘夷浪士など構ったところで時間の無駄。それよりも怖い思いをしていたであろうを慰めることが大切だ。そしてその役割を全うできるのは自分であって、もう一人に任せてなるものかと。
そういった思いからか、大の男二人が、屈みこんで一人の少女を慰める。慰めると言うよりも、如何に自分の方が役立つかを訴えている。その絵は微笑ましさを通り越して空恐ろしささえ感じられるのだが、当然ながら当人達はまるで気にしていない。
もちろん、構われる自身も、それが異様な光景だとはまるで思っていない。それは幼い頃から当たり前の光景。何より、二人に対して絶対的な信頼をよせているのだから。
 
「あのね、あのね……銀ちゃんも、晋ちゃんもいるから、絶対大丈夫だって。思ってたの。思ってて…………でも」
 
怖かったのと、か細い声で呟いて。がぼろぼろと涙を零し出した。
これに慌てたのが銀時と高杉。を泣かせたのだ、今の攘夷浪士は殺しておくべきだったと後悔したものの、しかし今は後悔するよりもを泣き止ませる事が先決だ。
泣き出した少女を「ごめんな、。怖い思いさせて」「のことは、俺が必ず守ってやるから。な?」と必死になって慰める大の男が二人。その光景は空恐ろしさすら超えて滑稽にも見える。
余程怖かったのだろう。離れるまいとばかりに、二人の着物の袖をきゅっと握り締めたまま泣き続けるを、二人は懸命に宥め続けた。ようやく余裕を取り戻した野次馬達に囲まれ注目されているのにも構わずに。
 
 
 
 
 
  *  *
 
 
 
 
 
「…………うぜェ」
「文句があるならに言うんだな」
 
高杉の言葉は全く以ってその通りなのだが、当然ながらに文句を言うつもりなど毛頭ない。
地平線の向こうに落ちようとしている陽を背に、溜息と吐きながら銀時はゆっくりと歩を進める。
はしゃぎ疲れたのか、泣き疲れたのか。眠ってしまったを抱いて。
それ自体は、何の苦にもならない。動物園内を走り回ってたは本当に楽しそうであったし、運悪く攘夷浪士に捕まってしまった時は本当に怖かったのだろう。泣き出してからずっと、銀時から離れようとせず、着物をぎゅっと握り締めたまま眠りに落ちている。
唯一にして最悪の問題は、銀時だけではなく高杉の着物まで握り締めているという点だ。離そうとすればがむずがるものだから、おかげで銀時のすぐ隣を高杉が歩くという羽目に陥っている。男二人が並んで歩いて何が楽しいものか。けれどもが二人とも離そうとしないのだから仕方が無い。
 
「家に着くまでだぞ、家に。ついでに後ろのヤツもちゃんと連れて帰れよ」
「テメーこそ、ガキどもの躾しておけよ。人の後尾けた上に、動物園で銃ぶっ放すか、普通? 台無しじゃねーか」
「うっせー。てめェんとこのも、ガンガンに撃ちまくってたじゃねーか」
 
 
 
 
「……バレてたんだ」
「さすが晋助様っス!!」
「お前が騒ぐからネ」
 
二人が歩く後方の物陰から、ひょっこりと顔を出した三人の影。
銀時も高杉も後ろを振り向くことはない。だが明らかに存在がバレている。
一体いつからか。どこからバレていたのか。聞いたところで「最初からだ」と言われそうだ。それが嘘か真実かはわからないが。
 
「とにかく、何事もなくて良かったじゃない」
「けど問題はネ。あんなヤツらがいいなんて、男を見る目が無いアル」
「貴様っ! 晋助様を侮辱する気かァっ!!」
 
暴れ出した女二人はさておいて。
の男を見る目については実のところ神楽に同意したい新八であったが、それについても今はさておいて。
今日一日見ていたは、楽しそうだった。大人二人の意図はどうあれ、が幸せそうだったのだから、それでいいのではないか。
それよりも、今から周囲がこの調子では、が成長して彼氏ができたりした日には、一体どんな騒動が待ち受けているのか。無駄と思いつつもつい心配してしまう、新八だった。



<終>



動物園やら街中を堂々と歩いていても高杉が捕まらないのは、ファンタジーだからです。
そういうことにしましょう。ハイ(笑)
気付けば無駄に長くなってしまいました。スミマセン。でも本当は、動物園における神楽とまた子の攘夷浪士掃討作戦(笑)も書きたかったのです。これ以上長くなってどうするんだ、と思って切り捨てたんですが……

('08.07.27 up)