大人と子供の理想関係 〜おやすみまで見つめて〜



銀時は不機嫌だった。
たかがジャンケンに負けただけで、可愛い可愛い妹であると風呂に入れなくなったのだ。
自分でもバカだとは思うが、それでも不機嫌にならずにはいられない。
が。
 
「銀ちゃん! 明日は一緒に入ろうね!」
 
風呂上りのに笑顔で言われてしまえば、機嫌を直すしかない。
実に単純。
わかっていても、にこにこと笑うの前では、そんなことはどうでもよくなってしまう。
返事の代わりに頭を撫でてやると、嬉しそうに抱きついてくる。
十分に温まった身体のその温もりは、抱きつかれた銀時にとっても心地よい。
が、このまま放っておけば、湯冷めしてしまうだろう。それは避けなければならない。
 
。冷えない内に、布団の中に入ろうな?」
「うん……でもわたし、どこで寝たらいいの?」
「ああ。あっちの部屋に俺の布団敷いてあっから。そこでいいよな?」
「ほあちゃァァアアアっ!!!!」
 
銀時の言葉に、が頷くよりも先に。
神楽の放った飛び蹴りが、銀時の顔面を直撃した。
壁に頭を打ちつけてその場に撃沈する銀時。
その姿を満足そうに見やると、神楽はぽかんと目を瞠るしかないの肩を掴んで揺さぶった。
 
「ダメヨ! あんなポリゴンの布団に入ったら最後ネ!
 散々弄ばれた挙句、骨の髄まで貪られてポイ捨てされるのがオチに決まってるアル!!」
「え? 捨て……?」
「てめっ神楽っ!! どんな目で俺のこと見てんだァァァ!!!?」
 
頭を押さえながら、よろよろと起き上がる銀時に、神楽は平然と「本当のことネ」と言い返す。
尚も言い返そうとする銀時と、それに応戦する気満々の神楽。
その二人の口から結局のところ罵詈雑言が出てこなかったのは、しゃくりあげる声が耳に届いたからだ。
驚いて二人がそちらに顔を向けると、が涙を手の甲で懸命に拭いながら、それでも堪えきれずに泣きじゃくっていた。
 
―――
「…だぁ……やだよぉ…っく……捨てちゃ、やだぁ……ひっく…」
 
零れ落ちる大粒の涙に、神楽は困ったように立ち尽くす。
どうやら、神楽が何気なく口にした言葉に、が過剰なまでに反応してしまったらしい。
だが、そこはさすが銀時。可愛い妹のためなら、脳震盪を起こしかねないほどの痛みすらどこかに吹き飛ばす。
泣きじゃくるの前まで来ると、しゃがみ込んでと目線を合わせる。
 
「なァ、? いつ俺が、のこと捨てるって言った?」
「…うぅん……銀ちゃんは…言ってない、けど……っく」
「だろ? 俺はのこと、絶対に捨てたりしねーよ」
「……ほんと?」
「約束しただろ? ずっと一緒にいような、って」
 
駄目押しに頭を撫でてやると、泣きじゃくっていたの顔に笑顔が戻ってきた。
その目にはまだ涙が残ってはいるものの、それでも嬉しそうなの笑顔に、銀時は安堵する。
余程嬉しかったのか、首にしがみついてきたの背中を軽く叩き。
銀時は、少しだけバツの悪そうな顔をしている神楽を、黙って手で追い払う。
その仕種にムッときた神楽だったが、自分の言葉がを泣かせたという負い目もあってか、それ以上の文句は言わなかった。
ただし、「の上に圧し掛かったりしたら、即座にぶっ殺してやるネ」と物騒な言葉を投げつけてはきたが。
ともあれ、神楽が押入れの自分の寝床に入ったのを確認すると、銀時もまたを抱きかかえたまま立ち上がる。
本来ならば、今日のところはを布団に寝かせて、自分はソファかどこかで寝ようと思っていたのだ。
が、が離れてくれそうにないのだから、これはもう一緒に寝てやるしかない。
 
12歳にもなって、この甘えたがりはどうかと思うものの。
それでも、今まで存分に甘やかせてやれなかった負い目と。
そして、が捨て子だったことに対する憐れみと。
何より無邪気に懐いてくるが、あまりにも可愛いから。
どうしたところで、銀時は無条件にのことを甘やかしたくなってしまうのだ。
 
「銀ちゃん。大好き」
「そっか。俺ものこと、大好きだからな?」
「うんっ!」
 
涙の跡が残る顔で、それでも幸せそうに笑うを同じ布団に寝かしつけて。
風呂に入り損ねたことに銀時が気付いた時には、眠りに落ちたにしがみつかれて、身動きのとれない状態になっていた。



<終>



ロリコンなのはむしろ自分だと思った今日この頃。
ちゃんもいいけど、銀ちゃんも羨ましいことこの上なし。