大人と子供の理想関係 〜ごっこ遊び〜
「この場にいる男どもは今すぐ私に忠誠を誓うがヨロシ」
「はァ? 何言ってんだ、神楽のくせに」
「アチョー!!」
「ぶべっ!!」
昼下がりの公園にて。
神楽が唐突に発した言葉によっちゃんが異を唱えれば、即座に蹴りが入れられる。
それを見れば、他の遊び仲間が神楽に逆らえるはずもなく。
かと言って、言われるままに忠誠を誓って一体何になるのかという疑問もあるわけで。
無言のまま、お互いの動向を探っていると、すぐ近くでブランコに乗っていたがとてとてと走り寄ってきた。
「神楽ちゃん。いきなり蹴ったらダメだよ」
「コイツらが悪いネ。遊び心を理解しないアル」
何が遊び心だとその場にいた男子は総じてツッコミを入れたくなったが、よっちゃんの二の舞になることが明白であったため、子供ながらに空気を読んで言葉を喉の奥へと押し込んだ。
不服そうに膨れる神楽の隣で、困ったようにが笑う。
けれども神楽の意図も汲んでか、どうやら説明してくれるらしい。
「あのね。今、映画やってる『大奥』あるでしょう? 『大奥』ごっこやろう、って」
言われて、ああ、とその場にいる子供たちは納得する。
『大奥』。将軍は女、仕えるは美しき男三千人―――とか何とか。そんなCMが散々にテレビで流れていたため、誰しもがその映画の存在は知っている。然して興味が無いものだから、それきりの認識でしかないのだが。
しかしの言葉で、神楽が何をやりたがっているかは容易く判断ができた。
要は神楽が将軍役をやりたいのだと。そしてこの公園にいる男子を仕えさせたいと。
そんなもの御免被る、と全員が思ったが、やはり口には出さない。
神楽が将軍などになったら、一体何を要求されるか。遊びと言いながら、酢昆布一年分を献上しろとでも言いだしかねない。
しかし神楽に加えてまで男子たちの返事を待っているこの状況。何かしらの答えは出さなければならない。
「……僕、ちゃんが将軍役だったら、別に……」
「あ、俺も!」
「神楽ちゃんは付き人でいいんじゃない?」
「え、あの……」
名案とばかりに勝手にキャスティングを始めた男子たちに、慌てたのはである。
もともと『大奥』ごっこがやりたいと言い出したのは神楽である。そのために公園にまで来たというのに、このままでは何かおかしいことになってしまう。少なくとも自身は、『大奥』ごっこに参加するのは構わないが、将軍と言われても困ってしまう。何をしていいのかまるでわからない。
助けを求めるように神楽の顔を見たが、意外にも言い出しっぺの神楽までが目を輝かせて賛同していた。
「お前らにしては名案アル! に近付く悪い虫を排除する付き人が私ネ!!」
「え……」
何故だか圧倒的多数で配役が決定してしまった。
普段からあまり自己主張をしないに、異を唱えるという真似などできるはずもなく。流されるまま、将軍という役を振られてしまって困り果ててしまう。
「でも……何をしたらいいの?」
「黙って俺に守られてたらいいんでさァ」
思いもしない方向からの発言に振り向けば、いつからそこにいたのか沖田が立っていた。
が目を瞬かせている間にその手をとろうとした沖田だったが、しかし「死ねェェェ!!」と飛びかかってきた神楽を避けたためにそれは叶わなかった。
「何すんでィ」
「それはこっちの台詞ネ! に近付く男は何人たりとも許さないアル!!」
睨み合い取っ組み合いの喧嘩を始めた二人に、近付ける者は当然ながらこの場には誰もいない。
こうなってしまったら止める方法は無いと最近わかってきたは、二人が飽きるまで黙っておくことにした。それにこれはただのじゃれ合いのようなものだから放っておけばいいと、銀時にも言われているのだ。
しかしそうなると、そもそもの発案者である神楽が抜けてしまった今、としては手持無沙汰になってしまう。
周りにいる男子たちを見て「どうしよう?」と問いかけたところで、彼らもまた答えを持ちはしない。できることならば神楽を放って別の遊びをしたいところだが、後からどんな制裁を下されるかわかったものではない。
「心配いらん。には俺が責任を持って仕えよう」
「こたちゃん?」
降って湧いたかのように突然現れた桂に、男子たちは驚くが、は驚きもせずに小首を傾げている。
神出鬼没で他人が目の前に現れることなど、にとっては日常茶飯事。いちいち驚いていられない、というよりも、それが当たり前となっていて、驚くようなことではなくなってしまっているのだ。
だから、と言うべきか。
「に気安く触ってんじゃねェよ」
「貴様こそ誰の許可を得てを抱っこしているんだ!」
突然抱きあげられることにも、すでに慣れっこになってしまっていた。
ふわりと抱えあげられ顔を上げれば、そこには高杉が当たり前の顔をしている。幼い頃から繰り返されていて、にとってはこれはすでにして日常。突然現れることに対しても疑問を抱くことすら無い。
そして、自分の頭上で交わされる言い争いもいつものことであるため、やはりは気にしていない。言い合っているその中身はなかなかに剣呑なのだが、これもまた銀時から、口が悪い人間の単なる挨拶の応酬だと教えられているため、そういうものだとは思っている。
何だかんだと一緒にいる場面をよく見かけるのだから、にしてみればそう思うのも当然と言えば当然なのだろう。実際には、がそこにいるからこそ、二人がかち合ってその場にいるだけなのだが。
「はーい。は俺のな。銀さんのな? いいから黙って俺に返しやがれコノヤロー」
「銀ちゃん!」
続いて聞こえてきた声に、は満面の笑みを浮かべる。
そのままひょいと抱え上げられ、今度は銀時の腕の中へ。そしてこれもまたにとっては日常であるため、またもや疑問に思うこともない。
「その手を離すネ! いくら銀ちゃんでも許さないアル!!」
「旦那ァ。独占禁止法違反で逮捕させていただきますぜィ」
「フン。いつもいつも貴様達に美味しいところを持っていかれてたまるか」
「馬鹿か。を守るのは俺の役目なんだよ」
「消えてくんない? 頼むからお前ら全員、俺との前から消えてくんない?」
言うや、5人の間で火花が散る。
相変わらずはのんびりとその様子を眺めているが、空気を読んだ他の子供たちはそうもいかない。
まさに一触即発の空気。このままこの場に留まっていれば、どんなとばっちりを食らうかわかったものではない。敏感にもそう悟る。
「あ……僕、もう帰らなくちゃ」
「俺も……」
「バイバイ、ちゃん」
「あ、うん。バイバイ!」
にこにこと手を振るの周囲には、やはり火花が散ったまま。このままではいつ暴発することやら。
そそくさと公園から立ち去った子供たちが思うことはただ一つ。
「なんかさ……」
「アイツらだけで、三千人分だよな」
「大人げないけどね」
将軍役に相応しく、は大物だと。そんなようなことだった。
<終>
単に大奥ごっこしたかっただけです。パロを書く知識は無かったので。
ちなみに、大奥は映画も漫画も未見です。wiki知識のみ。
さて。このメンツの場合、「ご内証の方」は誰になることやら……(笑)
('10.11.14 up)
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