大人と子供の理想関係 〜このねここねこ だれのねこ?〜



世の中、実にこじつけて記念日を作るのが好きらしい。
10月10日が目の愛護デーだったり、11月22日がいい夫婦の日だったり。
毎日が何かしらの記念日状態だが、自分に関係のないところであれば好き勝手にやってくれて構わないと銀時は思う。
そう。自分に関係がなければ。
より正確に言うのであれば、自分とに関係がなければ、だ。
自分が巻き込まれるのは勿論御免被るが、可愛いばかりのを言葉巧みに唆して巻き込むなど言語道断。それはもう抹殺されても文句は言えないはずだ。何せ世界で一番可愛い妹を、実にくだらない行事に巻き込んでいるのだから。
そう思うのに実行に移せないのには訳がある。

「文句があるなら、先月からの家賃、耳を揃えて払いな」

言われて、出せるものならばさっさと出している。しかし、無いものは無い。
己の不甲斐なさに頭を抱える銀時の視線の先では、がちょこちょこと店内を駆け回っていた。
今日のようにがお登勢の店を手伝うことは、無いわけではない。
銀時としてはそんなことをさせたくないのだが、が自分から言い出しているのであれば、小遣いもやれない身としては口を出せない。
だが、今日に限っては違うのだ。
が動くたびにチリンチリンと軽やかな音を立てるのは、首元に結わえられた鈴。更に頭上には、ふわふわと触り心地の良さそうな黒い猫耳。
ただその二つの装飾がプラスされただけで、の可愛らしさが犯罪性を帯びてくるのだから堪らない。
何で猫耳なんだと詰め寄ったところ、「今日は猫の日だからだよ」などとあっさり返ってきた。
2月22日。2が三つでにゃんにゃんにゃん。で、猫の日。
こんな日を考えたヤツは馬鹿だと心底思う。こじつけにも程がある。何が猫の日だ。可愛いにも程がありすぎるではないか。が。キャサリンは正直どうでもいい。たまの頭上にも猫耳が生えているが、これもの可愛らしさに比べたら些細なものだ。

ちゃん! 枝豆追加!!」
「は、はいっ!」

客に呼ばれてパタパタと駆けていくに、呼んだ男の相好が崩れている。
対して銀時の苛立ちは上昇する一方。
ここにいてはストレスが溜まるばかりなのはわかりきっているが、しかし自分がいない間にに何かあったらと思うと、部屋に戻ることもできない。
を連れ戻したくとも、滞納している家賃を出されれば反論もできない。
結局、店に残るしかないのだ。

「ねぇねぇちゃん。その耳ちょっと触らせてくれないかな?」
「触りたきゃおさわりパブでも行ってろよ」

でなければ、に触ろうとする不埒な輩を牽制することもできない。
客の手から逃すようにの身体を抱き上げると、銀時は元の場所へと戻る。
為されるがまま、は腕の中で大人しい。いつものことだからと慣れきっているのだろう。実にいいことだ。
後ろから抱きかかえれば、小さなの身体はすっぽりと腕の中に収まってしまう。そして視界の端にはふわふわとした猫耳。なるほど、これは確かに何やら触りたくなる。しかしそれはあくまで、兄である銀時にのみ許された特権だ。
そんな思いも込めて頭を撫でてやれば、擽ったそうにが身を竦める。が、嫌がってはいない。当たり前だ。嫌がられたりしたら、ショックのあまり一ヶ月は寝込みそうだ。

「オイ。営業妨害するなら帰りな」
「妨害? がここにいるだけで十分営業してるだろーが」

可愛い妹を客寄せパンダにすることすら、本来であれば我慢ならない。この状態ですら、銀時にしてみれば随分と妥協しているのだ。
「なァ?」との顔を覗きこめば、控えめな笑顔が返される。何だこの可愛い生き物は、と思わず抱きしめる腕に力を込めたところで、冗談では済まされない殺気が向けられていることに気付いた。
それでもを抱きしめる手を緩めることはない。ただ視線だけを動かせば、背後から喉元に突きつけられている刃先が目に入った。
殺気の持ち主は振り返らずともわかる。何だってテロリストが場末のスナックに現れるんだと言ってやりたい。

「ヅラァ。がケガしたらどうしてくれんだ。俺が責任とるけど」
「今すぐ俺の可愛い猫耳天使を離さんか、このケダモノ。そして責任は俺がとるに決まっているだろう。ついでにヅラじゃない桂だ」

『天使』とは、また痛い発言をするものだ。
いや、確かに羽根が生えててもおかしくないくらいに可愛いけどよ、と銀時は思う。自分でも散々にのことを天使だ妖精だと半ば本気で思っていることはすっかり棚の上だ。
一応はの安全をとったのか、向けられていた刃が鞘へと収められる。
ようやく振り向いてやれば、桂が苛々とした面持ちで立っている。が、銀時の腕の中から「あ、小太ちゃんだ!」とが嬉しそうに笑いかければ、途端にその相好が崩れる。正直この世から消えてほしい。
例に漏れずの頭を撫でようと伸ばされるその手を払いのけながら、そう思わずにはいられない。

「ちなみに、3月3日はうさぎの日。11月1日は犬の日というデータがあります」
「そうかい。じゃあまた何かやるかねェ」

たまとお登勢のそんな呑気な会話を耳に、銀時は胸中で誓う。
3月と11月は、何があっても家賃を滞納してなるものか、と―――
 
 
 
  *  *
 
 
 
―――晋助さまなら今、休んでるッス。用事なら後にしな」

高杉がいる部屋の前で部下を追い払いながら、何故自分がこんな番犬のような真似を、とまた子はつくづく思う。
しかし、僅かなりとも責任を感じている以上、この状況にも甘んじる他ない。
地球にいる部下が送ってよこしてきたメール。宇宙空間にも届くとは最近の携帯機能は素晴らしいと思ったのは束の間、添付されていた画像に衝撃を受け、条件反射のように高杉に見せてしまったのは他ならぬまた子自身。
即座にメール転送を命じられたのは当然のこと。印刷してアルバムに貼り付けていたのはできれば気のせいだと思いたい。更にそのアルバムを眺めてニヤニヤ笑っていたのは目の錯覚だと信じたい。
それでも、こうして部屋の前で人払いをしてしまうあたり、気のせいでも錯覚でもないのだと、頭のどこかで理解しているのだろう。

溜息を吐きながら、パチンと携帯画面を開いてメールを確認する。
送られてきた添付画像の中では、猫耳をつけたが恥ずかしげに微笑んでいた。



<終>



2月22日はぬこの日です。
「そうだ! 猫耳をつけよう!」
そんなことを思っただけです。
銀さんはシスコンでロリコンですが、高杉はロリコンでストーカーで、こっちのが危険度高いんじゃないかと最近気付きました。今更ですかそうですか。

('11.02.20 up)