大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

ひとつ・ふたつ

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僕:昨日は飛騨方言「よったり(四人)」について記載したが、急にアクセントが気になってきた。飛騨語「よったり」は尾高、「〜で・〜の」等を「よったり」に接続させると平板アクセントで無い事がわかる。
君:まずは東京式は「ひと\つ・ふたつ\・みっつ\・よっつ\・いつ\つ・むっつ\・なな\つ・やっつ\・ここ\のつ・と\お」。
僕:うん。そして飛騨方言アクセントも全て東京式。ここで気づくのが「ふたつ」のアクセントの奇妙さ。促音便で終わるのはすべて尾高、つまりはアクセント規則がある。それに「ひふみよいむなやと」という事で語頭はすべて異なるから、全てを促音便としても使い分けは可能なのにね。
君:お孫さんに数を毎日、教えているのね。
僕:うん、勿論。古代の数は「ひと・ふた・み・よ・いつ・むゆ・なな・や・ここの・と」、これから考えても語根「ふた」のアクセント核が消滅して基数詞接辞「つ」にアクセント核が移動したのが異常な現象である事に気づかされる。今、NHKアクセント辞典を見てもいろんなことに気づかされる。「ひと〜・一」の名詞は例外なく「と」にアクセント核があり中高名詞だが、飛騨方言ではアクセントが違うのもあるようだ。
まずはNHK式だが
★★★「と」にアクセント核があるのが、ひと\え、ひと\えだ、ひと\おし、ひと\おり、ひと\かかえ、ひと\かたげ、ひと\かわ、ひと\きり、ひと\きれ、ひと\くぎり、ひと\くくり、ひと\くさ、ひと\くさり、ひと\くち、ひと\くふう、ひと\けた、ひと\こえ、ひと\こきゅう、ひと\こま、ひと\ころ、ひと\さかり、ひと\さし、ひと\さら、ひと\しお塩、ひと\しばい、ひと\すじ、ひと\たち太刀、ひと\たび、ひと\つあな、ひと\つかま、ひと\つき、ひと\つづき、ひと\つぶ、ひと\つまみ、ひと\とき、ひと\ところ、ひと\とび、ひと\なつ、ひと\ねいり、ひと\ねむり、ひと\のみ、ひと\は、ひと\はし、ひと\はた、ひと\はたらき、ひと\はな、ひと\はら、ひと\ばん、ひと\ひねり、ひと\ふで、ひと\ふゆ、ひと\ふり、ひと\ふろ、ひと\ふんべつ、ひと\ま、ひと\まく、ひと\むかし、ひと\むれ、ひと\め、ひと\もうけ、ひと\もじ、ひと\やく、ひと\やすみ、ひと\、ひと\よ。以上だった。
★★★そして「と」のアクセント核が脱落していて続く基数詞の語頭にアクセント核があるのが、ひとお\もい、ひとか\けら、ひとかど\、ひとく\ろう、ひとさ\わぎ、ひとしお一入\、ひとし\ごと、ひとし\ずく、ひとそ\ろい、ひとたまり\、ひとつだけ\、ひとつば\なし、ひとつ\ぼし、ひとつめ\、ひととーり\、ひとに\ぎり、ひとふ\んばり、ひとま\わり。以上だった。
★★★蛇足ながら、「ひとり〜」という複合語はアクセント核は後方部分にあり、どれ一つとて「ひとり」の部分にアクセント核は存在しない。
君:暇ねえ。オリンピックは観ないの?
僕:観ながらやっている。上記情報をアクセント辞典から抽出していて愕然、とんでもない事に気が付いた。やはり飛騨方言のアクセントはNHKアクセント辞典の内容とは違っていた。ただし、違っていたのはたったの一点においてのみ。
君:へえ。一言で著せるような簡単なアクセント則だったのね。
僕:うん。実は飛騨方言には厳格なアクセント則がある。もったいぶらずに結論を。飛騨方言においては基数詞が三拍以上になると基数詞の語頭にアクセントが移動する。具体的には一抱え・ひと担げ・一区切り・一括り・ひとくさり・一工夫・一呼吸・一盛り・一芝居・一寝入り・一眠り・一働き・一ひねり・一分別・一昔・一儲け・一休み、以上の17個の単語だ。全国の皆様へ、これは本邦初公開の資料でございます。
君:左七の頭が完全にそのようなアクセント体系になっているのね。
僕:要はそういう事。今日は自分の言語脳に潜んでいたひとつの規則を発見してしまったという、記念すべき日だ。『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日。『へえ、三拍以上の基数詞は必ずアクセント核なんや』左七がこれに気づいた今日は飛騨方言のアクセント記念日。
君:意外とアクセントって奥が深いのね。
僕:そういう事。
君:実はその反面、意外とアクセントって単純な規則で成り立っている事が多いのね。
僕:そういう事。
君:意外とアクセントって東京式にみえてそうではない、飛騨独特のアクセント体系があるのね。
僕:そういう事。
君:左七は「なんちゃって東京人」はおよしになったほうがいいわよ。「あれっ?アクセントが少し違っている」という事で、すぐにばれちゃうんだから。
僕:「高山に住んでいた事がありますので。」ってのはどうかな。
君:見栄っ張りが何を言ってるの。ゼロ歳から18歳まで高山に住んでいた、つまりは出身が飛騨で、と正直に白状なさいませ。
僕:そうか。今日、気づいたアクセント則を講義すればいいんだ。なんちゃって国語の先生はどうかな。
君:およしなさいませ。それこそ直ぐにばれちゃうわよ。それに知っている事と教える事は別。教師の仕事を甘く見ないでね。ほほほ

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