大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

きる熱(=ほてる火照、暑く感ずる)

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僕:高山は高原都市というにはほど遠く、盆地であるため、夏の日中はとても暑い。そこで出てくる飛騨方言が「あーれ、いきるなあ。」。
君:夜は涼しいわね。
僕:うん。夏は一日の気温の差が大きい。「いきる」とは、自分がそう感ずる、という意味で、外気が暑い、という意味ではない。全国共通方言で飛騨では平板アクセント。全国的に平板だと思う。古語動詞「いきる熱」自ラ四から来ている。意味は同じ。
君:東京アクセントも飛騨式アクセントも「生きる」は中高ね。だから「熱る・生きる」は平板・中高の違いで簡単に区別できるわね。「熱る」が全国的に平板であろうと考える根拠は?
僕:共通語に「いきりた\つ」がある。
君:なるほどね。それに自カ上一「生きる」対自ラ四「熱る」で、そもそもが活用が異なる事が関係するわね。つまりは連用形が「生き」対「いきり」。つまりはアクセントは「い\き」対「いきり」。
僕:他の地方の「熱る」のアクセントは残念ながら不明。手元に明治書院・現代日本語方言大辞典全九巻がある。各語に各地のアクセントが記載されている。「生きる」は掲載されているが、残念ながら「熱る」は収録されていない。共通語・いきりたつ、から推して知るべし。蛇足だが、角川古語大辞典全三巻には「いきる熱」の名詞形として「いきれ」の記載がある。ただし飛騨方言では「いきる熱」の連用形は促音便になるね。つまりは「あーれ、いきってまって、てきないなぁ(=ほてってしまって、苦しいな)。」。つまりは「いきりて」の音韻変化である事は書かずもがな。勿論、アクセントとしては平板「いきってまって」で次の言葉に続く。
君:共通語「ほてる火照」は中高よね。
僕:うん。アクセント辞典で確かめた。「照る」は頭高だから、「火」のように「照る」という事で、中高で決まりだな。
君:いずれにせよ、平板「いきる」は特異なアクセントよね。
僕:うん。確かにそう思う。興味が湧いたので、先ほど来、逆引き辞典とアクセント辞典の二つを総動員して、「る」の直前の一音韻がイ列のラ行動詞を全て調べたら、平板は「に煮似」の動詞だけだった。やはり思った通りだった。激レアなアクセントだった。他は全て中高アクセントだった。
君:そこから左七のいつもの暴走が始まる。「に煮」と「いきる熱」に何か関係が無いか、などと、突拍子もない事を考えたんじゃないでしょうね。
僕:いや、流石にそれはないよ。「に似」があるからね。正直なところ、がっかりだけれど。ぶふっ
君:「煮る・熱る」は日本語としては「似る」と合わせてたった三個の平板アクセントイ列ラ行動詞のようだけれど、語源的には「煮る・熱る」は似ても似つかぬ関係だったのね。煮れば熱るのが普通なのにね。ほほほ

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