飛騨方言では、何々をしてしまう、の代わりに、何々してまう、と言います。
名古屋方言の影響と考えざるを得ません。
なぜならば関西方言の言い回しでもありますが、アクセントは飛騨・名古屋はどうも共通で、
しかも明らかに関西アクセントとは異なるのです。
またこの表現のアクセントは、何々をしてしまう、という共通語表現のアクセントとも
少々異なり、中部独特の言い回しという事なのでしょう。
筆者は現在、畿内方言のアクセントに疎く、あれこれ記述する知識がまだ
ありません。共通語との違いを記載します。早速に例題ですが、
平板式動詞五段
二拍語 泣く ないてしまう ないてまう
○● ○●●●●● ▼○○○○
足す たしてしまう たしてまう
○● ○●●●●● ▼○○○○
三拍語 わらう わらってしまう わらってまう
○●● ○●●●●●● ○●●●●●
四拍語 はたらく はたらいてしまう はたらいてまう
○●●● ○●▼○▼○○○ ○●▼○○○○
平板式動詞上一段
二拍語 着る きてしまう きてまう
○● ○●●●● ○●●●
三拍語 浴びる あびてしまう あびてまう
○●● ○●●●●● ○▼○○○
平板式動詞下一段
二拍語 寝る ねてしまう ねてまう
○● ○●●●● ○●●●
三拍語 消える きえてしまう きえてまう
○●● ○●●●●● ○▼○○○
平板式動詞サ変
二拍語 する してしまう してまう
○● ○●●●● ○●●●
起伏式動詞頭高二拍型
五段 読む よんでしまう よんでまう
▼○ ▼○○○○○ ▼○○○○
上一 見る みてしまう みてまう
▼○ ▼○○○○ ○●●●
下一 出る でてしまう でてまう
▼○ ▼○○○○ ○●●●
カ変 来る きてしまう きてまう
▼○ ▼○○○○ ▼○○○
起伏式動詞中高五段
三拍型 泳ぐ およいでしまう およいでまう
○▼○ ○▼○○○○○ ○▼○○○○
四拍型 喜ぶ よろこんでしまう よろこんでまう
○●●○ ○●▼○○○○○ ○●▼○○○○
起伏式動詞中高上一段
三拍型 起きる おきてしまう おきてまう
○▼○ ▼○○○○○ ▼○○○○
四拍型 率いる ひきいてしまう ひきいてまう
○●▼○ ○▼○○○○○ ○▼○○○○
起伏式動詞中高下一段
三拍型 晴れる はれてしまう はれてまう
○▼○ ▼○○○○○ ▼○○○○
四拍型 調べる しらべてしまう しらべてまう
○●▼○ ○▼○○○○○ ○▼○○○○
起伏式動詞中高サ変
三拍型 課する かしてしまう かしてまう
○▼○ ▼○○○○○ ▼○○○○
四拍型 論ずる ろんじてしまう ろんじてまう
○●▼○ ▼○○○○○○ ▼○○○○○
愛する あいしてしまう あいしてまう
○●▼○ ▼○○○○○○ ▼○○○○○
やはり規則というものがあります。
飛騨方言においては、てまう表現は強固な癒合語で
先行する拍の調子に必ず引きずられ、▼ないし○ならさがりっぱなし○○○
という規則があるようです。
また一方、接続する動詞終止形が頭高にもかかわらず、
アクセントは逆転し、あがりっぱなし●●●となる動詞が少なからずあるようですね。
いずれにせよ、てまう表現のアクセントは、○○○か●●●、
の二種類しかありません。
アクセントの意義は同音異義語の区別にあるのでしょう、
きてまう、は▼○○○=来てしまう、○●●●=着てしまう、となります
ので簡単に区別がつきますね。
また、先行する動詞の拍数が多いと、てまう表現のアクセントは○○○になりやすい、
あるいは裏返しですが、二拍動詞では●●●が多いという特徴もあるようですね、ふふふ。
また更に、各種文節が下がり調子のてまう表現に接続しても結局は
さがりっぱなし、という大切な法則がありましょう。例えば、
愛してしまわないとだめだ、という意味で、
あいしてまわにゃあなあ、だしかん
▼○○○○○○ ○○○ ▼○○○
命短し、恋せよ乙女。しゃみしゃっきり。