大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法

音便が飛騨方言の"てまう表現"のアクセントに与える影響

戻る

的確な表題って難しいですね。 先だって神戸の学会に出張しましたが、 行きの新幹線の二時間の間におよそ千の抄録のはしょり読みです。早い話が表題だけ。 前置きはさておき、飛騨方言では、してしまう、というのを、 してまう、と言い一語脱落します。大阪方言と同じです。 がしかし飛騨方言アクセントは実は純東京式なのです。 つまり大阪方言を東京式アクセントで、しかも音便を伴う 動詞連用形で、というのが本稿のテーマです。 ちょいと内省してみましょう、ただし二拍動詞だけ。
   共通語    飛騨方言
イ音便
泣く ないてしまう ないてまう
○● ○●●●●● ▼○○○○
空く あいてしまう あいてまう
○● ○●●●●● ▼○○○○
書く かいてしまう かいてまう
▼○ ▼○○○○○ ▼○○○○

撥音便
  生む うんでしまう   うんでまう
  ○● ○●●●●●   ○●●●●
  膿む うんでしまう   うんでまう
  ▼○ ▼○○○○○   ▼○○○○
 すすむ すすんでしまう  すすんでまう
 ○●● ○●●●●●●  ○●▼○○○
              ○●●●●●
はにかむ はにかんでしまう はにかんでまう
○●▼○ ○●▼○○○○○ ○●▼○○○○

促音便
売る うってしまう うってまう
○● ○●●●●● ○●●●●
打つ うってしまう うってまう
▼○ ▼○○○○○ ▼○○○○
得る えてしまう  えてまう
▼○ ▼○○○○  ▼○○○
刷る すってしまう すってまう
▼○ ▼○○○○○ ▼○○○○

おまけ
する してしまう  してまう
○● ○●●●●  ○●●●
くる きてしまう  きてまう
▼○ ○▼○○○  ○●●●
内省としてはこの位で十分でしょう。 さて結論が途端におみえですね。 飛騨方言では何が何でも出来る限り、てまう表現の部分は 低アクセントでいく、という規則があるのです。

起伏動詞については論ずる事もないでしょう。例えば、打つ▼○。 共通語でさえ、飛騨方言ですら低アクセントで終了するしか ないのですから。

問題は平低型アクセントの動詞です。 例えば、勘考かんこう○●●●、という言葉がありますが、 創意工夫という事です。 そして飛騨方言のサ変動詞で、かんこうせる○●●●●●、 というのがあります。創意工夫する、という意味です。 これが、てまう表現になると、つまり連用形で活用すると、 かんこうしてまう○●●●●●●●、というアクセントに ならざるを得ません。若し○●●▼○●●●と発音すれば、 それは実は単に、勘考をしてまう、という意味の文章、格助詞を、の脱落なのですよねえ。

結論ですが、
飛騨方言の連用形音便てまう表現は必ず下がり調子
ただし唯一例外が同音異アクセント語、例えば生む○●と膿む▼○
でもよくよく考えると当たり前の現象
なんと単純でしょう。美しいですねえ。 Simple is beatiful!! そやでこいつを表題にするんじゃったわい。ほれてまうわい。

ページ先頭に戻る