大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 地名考

越中東街道

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私:今日は 2020/11/15、日曜日にて可児市の自宅から神岡まで二輪旅だった。
君:若しかして。
私:そう、ニュートリノ観測装置「カミオカンデ」の生みの親、ノーベル物理学賞受賞者・小柴昌俊先生が先だって2020年11月12日にお亡くなりで、飛騨市が名誉市民の先生をしのび、十四日から二十日まで記帳所を開設したので。迷わず筆ペンで。
君:場所は「ひだ宇宙科学館 カミオカラボ」ね。
私:その通り。日曜日という事もあり、かなりの人出だった。僕の前頭葉は量子力学、素粒子理論を大学の教養部ですこしかじっただけなので、ボーア理論どまり。その後は医学しかやっていないのでニュートリノの概念、宇宙の概念がしっくりと来ない。尤も研究テーマが核医学、つまりは原子崩壊の医学利用なので、放射性同位元素の話なら専門だけどね。僕の名大病院での仕事はガンマ線とポジトロンの世界だった。以下の動画だが、忘れかけていた懐かしい知識。なんとか思い出せた。

君:このサイトの書きぶりもそうだけど、あなたは徹底的に要素に分解するのが好きなのよ。
私:まあ、そうかも知れないね。ニュートリノの話は置いておいて、今日は越中東街道について。
君:つまりはオートバイで走ったのね。
私:走った。山また山だった。
君:地図があったほうがいいわよ。
私:では。

君:簡単に地図の説明もお願いね。
私:越中街道とは富山と飛騨高山を結ぶ江戸時代までの街道。西街道は神通川・宮川沿いのルートで西街道と呼ばれ、現在はJR高山線のルートに一致している。一方、東街道は富山県の猪谷までは西街道と同じだが、ここで宮川ではなく船津(神岡)まで高原川を遡り、船津からは高原川に別れを告げて山また山、つまりは複数の峠を越えて真っ直ぐに飛騨高山を目指すルート。東街道の長所は最短距離。
君:神岡ではなく、船津(神岡)と書いた理由は?
私:江戸時代には神岡の地名は存在しない。あった地名は江馬氏の城下町・船津。神岡は伝統的に船津という地名なんだ。神岡というのは三井という財閥が明治にかってにおつけになった地名といってもいいだろう。船津万歳。
君:峠の名前は?
私:大坂峠と今村峠だ。要素に分解すると、船津・吉田・下山田・山田防災ダム・巣山(以上神岡)・荒原(上宝)・大坂峠・十三士墓(無縁聖霊墓、以下国府)・西門前・今坂峠・上広瀬・高山。地図の十三墓峠の名前は無視して欲しい。
君:越中東街道には別名があるのよね。
私:その通り。高山からは美女峠を越えて朝日、高根、野麦峠を超えて信州に至るが江戸街道と呼ばれている。越中東街道と江戸街道を合わせて、つまりは富山湾のブリを信州まで運んだ「ブリ街道」だ。
君:真冬に、背中にブリを背負ってお運びになったのよね。
私:「ぼっか歩荷」という職業だね。飛騨方言では敬意を払って「さん」付けで「ぼっかさ」と言う。
君:当然ながら言葉も運ばれなかったのかしら。
私:如何に職業人の「ぼっかさ」が行き来なさるブリ街道であっても、飛騨の人達が生活道路で使っていた訳ではない。富山と飛騨、飛騨と信州では婚姻圏が完全に別の世界。従って言葉の混交は生じにくかったと思う。戦前から飛騨にお住まいの人々のミトコンドリア遺伝子を解析をした研究があって、飛騨の中では婚姻が普通だったが、富山と信州の遺伝子が無い、というような事がわかっている。
君:オートバイでとぼとぼと走っていて怖くなかった?
私:ああ、少し怖かったね。現在の越中東街道はかろうじて舗装がされているものの、廃道に近く、交通はゼロに近い。道路は落ち葉で埋め尽くされ、苔むしていて、蛇行し、谷は険しく、スマホは圏外。つまりは現在地を知るにはGPSだが、うっそうとした深山幽谷で電波状況は決して良くない。GPSすらアウト。尤も、一本道なので、そもそもがナビは不要だけどね。
君:ころんだらどうするつもり。
私:怪我にもよるが、最悪の場合はバイクを捨てて麓の村までトボトボと歩いて脱出するしかないね。
君:スタンドも無いし、コンビニも無いのよね。
私:ははは、たまに出くわすものがあるよ。
君:えっ、人家?
私:そう、しかも廃屋。
君:なるほど、電気も水道も無いのね。
私:そう、有るのは山だけ。
君:ほほほ、あなたが見つけて喜々としたものを知っているわよ。
私:えっ、わかる?
君:ほほほ、わかるわよ。答えは、越中東街道と記された道標。
私:そうなんだよ。あの道標には感激した。
君:そう言えば、あのかたがいらっしゃらなかったかしら。
私:あのかたって、おう、お地蔵さまだね。うーん、無かったな。そう言えば全然、無かったよ。
君:それと、何かが見えて感激したでしょ。
私:何かが見えて?・・そうそう、峠の景色だ。遠くに町が見える、ああ目的地はあそこだと確信する瞬間だね。
君:できたら二輪じゃなくて奥様とお車のほうが楽しいんじゃないかしら。地名、道標の要素のお話に花が咲き、更に共通の感激、つまりは車窓の景色。ほほほ

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