大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 地名考 |
うれ(上) |
戻る |
私:今夜は地形用語の話。上呂の北の川上岳(カオレダケ)とか、小坂の坂下(サコレ)の集落、河合町の中沢上(ナカゾウレ)、宮川町の中沢上(ナカソレ)と祢宜ケ沢上(ネガソレ)、こんなところかな。 君:音韻変化を説明なさったほうがいいわよ。 私:うん。川上岳はカハ・ウレ、坂下はサカ・ウレ、中沢上はナカ・サハ・ウレ、祢宜ケ沢上はネギ・ガ・サハ・ウレ、という事じゃないかな。歴史的仮名遣いの知識は必須という訳だ。これにハ行転呼や連母音の音韻変化が加わって今の地名になったのだろう。更に後世の当て字問題が加わる、という事だよね。ウレはウヘ上の音韻変化、所謂、子音 r の脱落ではない。 君:ウエ・ウレ、二語は別の言葉という事を説明なさったほうがいいわよ。 私:萬葉集146、後将見跡 君之結有 磐代乃 小松之宇礼乎 又将見香聞。 君:おっと、そうきたのね。後(のち)見むと 君が結べる 磐代(いはしろ)の 小松がうれを また見けむかも。 私:つまりは飛騨方言ウレは宇礼。歌意は柿本人麻呂が有馬皇子(ありまのみこ)の非業の死に捧げた挽歌。話が長くなるので略。ゴメンネ。 君:この場合、ウレ宇礼は磐代の松の葉先という意味じゃないかしら。 私:その通り。後世に地形としての先っぽという意味になって飛騨の地名に残っているようだ。 君:飛鳥時代と飛騨工の奈良時代では時代がずれているわよ。 私:何言ってんだい。たかだか数十年の違いだぜ。ウレは紛れも無い和語。そして飛騨の地名に今も生きている。 君:ほほほ、ウヘ上も和語よね。 私:なんだい、その言い方。ウレとウヘは全く別の概念。ついでにウヘ上とカミ上も別の概念。 君:では簡単にひと言で説明してね。 私:はいはい。ウレは先っぽの意味。ウヘは物の表面にてシタ下の対。カミ上は上位・上方を意味してシモ下の対。ウヘ・シタは悉無律というか極性の表現。カミ・シモは相対的位置関係。これを更に要約する事ができる。ウレだけ変わっている点が一つある。 君:ほほほ、わかるわよ。先っぽの反対は根っこ・土台だけれど、ウレには対語がないのね。 私:正にその通り。まあ、これ以上は書かないほうがいいと思うが、これだけは書かせてくれ。 君:ほほほ、なあに。 私:実は飛州志にウレの記載があるんだ。飛騨では上・端・末の意味でウレを使うが和歌にあるウレの事、との記載。つまりは既に江戸時代にはウレは中央では死語になっていた。代官・長谷川忠崇の興味を引いたという訳なんだよ。 君:飛騨方言の近代語でも現代語でもウレは死語。でも江戸時代に飛騨に和語・ウレが残っていたのね。 私:愛しいね。飛騨方言の歴史ロマンってやつだな。ウレは上記の地名に組み込まれる形で未来永劫に残るのでしょう。 君:いとしい、じゃなくて、ウレしい、でしょ。ほほほ |
ページ先頭に戻る |