ついこの間、明治時代まで山国飛騨と下界との交通は全て徒歩
しか無かった次第で、海の幸は塩漬け・干物などで
人に背負われて運ばれて来た次第です。
つまり飛騨には古くから刺身といえば川魚しかありませんでした。
さて、ぶえん(無塩)、という飛騨方言があります。
意味は塩漬けなどしない新鮮ぴちぴちのとれたての海の魚、です。
明治まで話されていたとは言え、既に戦前に死語に
なっていたのでしょう。
それでも全国各地から方言情報としてネット発信があります。
ぶえん(無塩)は実は平安時代の古語です。
古語辞典にある有名な文例ですが、平家物語8猫間に、
都の貴族が木曽義仲を揶揄して、
義仲のごとき山猿で都の言葉を知らぬやつは、
木曽山中で採れるひらたけの事を塩気がないからという事で、
ぶえん、と言っているが、ふふふ、ぶえんというのは海から
そのまま新鮮なまま内陸・京の都などへ直送されてくる魚の事を
示すのにねえ、彼は日本語を知らないんだよ
というくだりがあるそうな。尚、ネット情報によりますと
平家物語全テキストの全品詞解析結果は、ぶえん、の
頻度は2、もう一箇所ぶえんがあるはずです。
好事家はお調べあれ。
太宰 治・津軽にもぶえんの平茸のフレーズあり。
安土桃山時代の近畿方言、所謂・日葡辞書には Buyen がありました。
ところで突然に現代ですが、健康食品ブームで無塩(むえん)バターの
ネット情報が相当数、ヒットします。
平安時代から安土桃山までは、所謂・漢音読みで、ぶえん、
であったのがいつの時代からか、唐音読みで、むえん、になり、
今では漢音読みでは通じないという時代です。
但し、ネット情報では、ぶえん寿司、という現代語があるそうですが、
私は使った事がありません。
ぶえん、という言葉は中世に神通川・飛騨川を
遡上して飛騨の地にやって来たに違いありません。
また江戸時代の飛騨川の関所・御厩野口留番所
記事に、ぶえん、の記載があります。
また木曽義仲が誤用した言葉ですから、
鎌倉時代に既に木曽川も遡上した言葉だったのでしょうね。
ただし義仲さんは残念ながら曲解してしまった。
彼は新鮮な海の魚を見た事がなかったのだろう、という事も
平家物語は教えてくれます。しゃみしゃっきり。
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