大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

またじ・あとまたじ・ゆきまたじ・飛騨方言

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飛騨方言・またじ、は片付け、始末、整理、整頓、処理、掃除、などの意味で、物事をきちんとすることをいいます。 この単語に更に形容する名詞が付加し、あとかたずけの事をあとまたじ、といい、雪かき、ないし、雪降ろし、の事を 雪またじ、といいます。

ネット検索しますと、飛騨地方以外に、能登、松任市、上越地方の方言として残っています。勿論、意味は同じです。 但しヒット数は数十件で、極めて珍しい言葉に属します。 同地域のうち、あとまたじ、という言葉が話される地域も見られます。

またじ、が話されている上記の地域が、地勢的、文化的に特別に深い結びつきの地域ではなく、 むしろバラバラですので、語源を考える事は簡単でしょう。古語辞典に答えがあります。 結論ですが、古語の形容詞に、まったし(全し)、またし(全し)があります。 意味は欠けたところが無い、完全である、整っている、安全である、などです。 まったし、またし、はまさに飛騨方言・またじがなされた状態であるという古語形容詞です。

さて、飛騨方言では形容詞はウ音便とサ行イ音便が特徴です。
    (1)つまりは最初は掃除などをする事を、まったしゅうする、またしゅうする、またしする、またじする、と言っていたのでしょう。 まず、片付けをするという動詞の成立です。

    (2)やがてはこの動詞表現の語幹部分、またじ、が独立した意味・かたづけ、となったのでしょう。片付けという名詞の成立です。

    (3)さらには、物事が終了してから片付ける事をあとまたじ、というようになり、 雪おろし・雪かきなどで雪を片付ける事を"雪またじ"というようになったのでしょう。名詞概念の拡大です。
以上実に長い、またじ三段階発展仮説ですが、このように飛騨俚言・またじが成立したと私・佐七は考えます。

ところで、動詞は連用形で名詞になります。そこで名詞「またじ」が仮に動詞の連用形とすれば元の動詞は「またず」になります。 この仮想的動詞が古語にあるか、あるいは現に方言で使用されている地方があるか調査したところ、答えは否、でした。古語辞典にはありませんでした。ネット方言としてはヒットゼロでした。 実は古語辞典には、まだす(=つかわす、派遣する)、という類似語がありますし、 また、"またじ"の仮の動詞化・またず、は「待たず(否定)」と同音衝突します。 この二点を日本人は誰もが嫌って、またず、と言う動詞は結局生まれなかったのでしょうか。

ところが、以上すべては私の推量です。完全に外れている可能性はなきにしもあらず。 若しそうだったら御免なさい。

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