雪崩の事を飛騨方言で、のま、といいます。
明治時代までは日常会話の語彙だったのでしょうが、
死語になっています。岐阜県図書館言語地図
が筆者にとっては貴重な資料です。
ところでこの言葉は富山方言でもあるのです。
富山弁ゼミナール・のま
の通りです。蛇足ながらシーエーピー社様の
無料コンテンツであり、プロのお仕事です。紙面を借りてお礼申し上げます。
さて、筆者の最大の関心は飛騨方言の語源ですが、
シーエーピー学術部の同記事は
ちょろちょろとした雪解け水から連想して、沼を語源としておられます。
しかし、筆者は実はそのようには考えません。
実は、飛騨方言の雪崩(のま)は地響きと共に谷を走り、
家を呑み込む大雪崩を示すのです。
筆者は、雪にのまれるから、のまれ、
つまり動詞連用形が語源、と推察します。
上記記事によると富山方言では、沼(ぬま乃至のま)と雪崩(のま)は
共に頭高二拍のようです。
ところが、飛騨では沼(ぬま乃至のま)と雪崩(のま)は
アクセントが異なるのです。
飛騨では沼は、ぬま(あるいは、のま)○●、で平板二拍、
沼のようにドロドロした田は、ぬまだ(のまだ)○●●、です。
雪崩(のま)は、▼○、頭高二拍で、
飛騨方言としては異質で、不思議なアクセントです。
以上の事実から、またあれこれと推論が可能です。
筆者の推論とは、のま、と言う言葉は富山で生まれ、
意味(雪崩)とアクセント(▼○)が変わらずに飛騨に伝播した言葉だろうか、
という事です。
また更なる筆者の推論ですが、富山において、のまれ>のま、と訛ったのでは
ないでしょうか。
理由があります。
飛騨方言のアクセントは、のまれる○●▼○、ですから
若し飛騨方言が語源ならば、のま○●、でなくては
ならないでしょうが、現実は逆です。
となれば富山方言のアクセントは若しや、のまれる●▼○○、
の畿内アクセントではないか、と筆者はかってに想像します。
逆に、飛騨方言として、のま、が成立して富山に
伝播した可能性はどうでしょうか。
私には考えられません。
実は飛騨といっても広いのです。
南飛騨・下呂のあたり、そもそも雪は降らない地域に
雪崩などあろうはずもありません。
雪崩があるとすれば北飛騨です。
がしかし北飛騨とて純飛騨方言ゆえ、富山方言とは
明らかにアクセントは異なるはずです。
以下、重要点をまとめに。
まとめ
★のま、は雪崩を意味し、富山と飛騨の共通方言である。
★その語源は、雪にのまれる事から、のまれ、であろうと
筆者なりに考える。
★富山方言の特徴、末語を略し、
意味が通じれば畢竟それでよしとする傾向( 例えば我を、わあ )、等を
考えるに、富山方言で、のまれ>のま、の語変化が
生じ、これが北飛騨から飛騨全域に伝播した可能性が
ある。
★のま、は頭高二拍のアクセントであり、
飛騨方言としては奇異に響くが、
富山から伝播した言葉と考えれば合点がいく。
★距離の点からも、人の交流の点からも、
富山方言と飛騨方言は古来の兄弟仲に間違いない。
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