別稿にいくつか記載した通りですが、
筆者は、げばす、の語源は古語動詞・けはずす、であろうと
主張いたします。
実は最近、異説が目に留まりましたので
この際は記載しておきましょう。
高山市の岐阜県ミュージアムひだ、の資料室にあります書籍・
滅びゆく方言を訪ねて、岐阜県方言研究会編、昭和五十一年版、西濃印刷・岐阜市七軒町15、
には、げばいた、の語源は、下卑た、であろうかと記載がありました。
筆者は、やはり、下卑た、という説は単なる民間語源、
いわゆる思い付き、の域をでない説であろうと主張します。
論拠は以下の如くです。
- げばいた、は、サ行四段動詞げばす、の連用形イ音便です。
一方、下卑た、は形容動詞でしょうが、動詞化すると、げびる、
ですね。.ラ行下一段(ラ下一)です。
ラ行下一段・げびる、がいつのまにかサ行四段動詞に化ける事など
不可能に近いでしょう。その点、げばす・けはずす、ともに
今も昔も四段、活用はドンピシャリ。まさに言う事なし。
- げびた>げばいた、と音韻の変化があったのであるうか、
と考える事自体が、国語の音韻史、数ある方言学の専門書の
記述に反する事です。
げばいた>げびた、というように言葉が変化した可能性は有り得る。
これを専門用語で連母音融合というのです。
- アクセント学の見地からも、下卑た、という説はアウトです。
ところで、げばす、のアクセントは平坦型三拍○●●、
ですが、元々は中高だったのでしょう、つまりは○▼○、
つまりは時代と共に終止形のアクセントが平坦型に
なったのであろう事は多くのアクセント学の専門書が
教える通りです。
ところで、げばいた○▼○○、と言いますので、
つまりは、ば、にアクセントの核がありますね。
ですからすべて辻褄があうのです。
一方、げびた▼○○、というアクセントです。
頭高です。これが中高四拍・げばいた○▼○○、
という言葉に進化するなどと言う事があるのでしょうか。
否、と言わざるを得ません。
- 肝腎なのは意味ですが、げばいた、といえば
下品な卑しい事のみを示すのでしょうか。
否、いつもは百点を取れる試験で一問まちがっても、
げばいてまった、というのです。カンニングがばれた、
という意味はありません。
初めて仲人を頼まれて、はりきって百回スピーチの
練習をしたけれど、本番ではやはりとちってしまった、
という事も、げばいた、というのです。
下品な卑しい、という意味は毛頭ありません。
以上の考察から最早、明らか。飛騨の皆様へ、
決して卑屈な思いで、けばいた、と言わない事に
しましょうね。げばす、の語源は、けはずす、です。
ミスシュートです。
全身全霊をこめて、ゴールキーパーめがけて蹴った
球がたまたま反れた、とにもかくにも残念至極、
というのが、げばいた、という言葉。
決して人を卑しめる言葉ではありません。
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