大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

ギシギシの飛騨方言

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私:ギシギシ羊諦 Rumex japonicus はタデ科の多年草。各地の路傍の湿地や水辺に生える。飛騨方言では、うしのすいもんさ・うしずいもんさ。
君:あなた、草本を語るのにせめて写真くらいは載せなくちゃ駄目じゃないのかしら。
私:まあね。仰ることはわかりますが、当サイトは植物学のサイトではないし、園芸のサイトでもない。僕が扱うのは国語学、そしてその下位分類たる方言学という学問、加えるに日本語の歴史、つまりは古典文学の世界。だから読者の皆様には文字の世界だけをお楽しみいただきたい。
君:ほほほ、わかったわ。では、共通語・ぎしぎし、の説明からね。
私:ギシギシの古名は、し羊諦。万葉集1857。年のはに梅は咲けどもうつせみの世の人我れし春なかりけり。
君:意味は?
私:毎年、梅は咲いて春が来るのに、(うつせみの)世の人の私には春は無いという事だ。つまりは、あの人をあんなに愛しているのにちっとも報われない・僕の心はいつも冬・ああ辛い・ああ苦しい・人を愛する事はこんなにも苦しい事なのか・もう人なんか愛するものか・バカヤロー、ってな気持ちを詠んでいるね。蛇足ながら、我れし、は人称代名詞+副助詞し(意味を強める)。つまりは草の、し羊諦、を副助詞し、に掛けているというエキセントリックな一首だよね。
君:今も昔もラブロマンスって変わらないのね。
私:勿論です。素敵な人を愛さずにはいられない、万葉の時代からの人間として当たり前の感情です。
君:ところで、ギシギシ、の語源は?
私:そんなのは、万葉時代の、し、が、やがて、ギシ、になり、ついには、ギシギシになったからだよ。考えるまでもないでしょ。
君:あら、それって思考停止よ。文献を示してね
私:はいはい。日葡辞書にはギシギシ Guixiguixi がある。重畳語になったのは鎌倉辺りだろう。多分。
君:あら、投げやりね。
私:よくわからないんだ。勘弁してくれよ。
君:いいわ。では、飛騨方言・うしのすいもんさ、についてはどうなのかしら。
私:ははは、待っていたぞ、その言葉。
君:えっ?
私:答えを教えたも同然だが、ギシギシとウシノスイモンサ、両語の共通音韻はなんですか。
君:し、だわよね。
私:その通り。だから、飛騨方言では、シ羊諦がウシになったんだよ。
君:どこかに書いてあったのかしら。
私:いや、どこにも書いてない。ただし日本植物集成にはギシギシの方言がざっと二百近く記載されているが、ウシ〜の音韻は数十ほどある。まあ、直感ってやつかな。
君:百歩譲って、すいもんさ、はどう説明するのかしら。
私:ははは、それこそ簡単な質問。小学館日本方言大辞典には、すいもぐさ・すいもさ・すいもの・すいすい・すいものぐさ、で大量の語彙が紹介されている。つまりは飛騨方言・すいもんさ、の語源は、すいすい+もぐさ、に違いない。
君:それもどこかに書いてあったのかしら。
私:いや、どこにも書いてない。直感だ。
君:そんなの意味ないわよ。
私:ピンとくる、ってのは本人しか感ずることが出来ない感動だからね。
君:ほほほ、感動しているのね。
私:今日も万葉集の素敵な歌に巡り合えたし。
君:結局はそこに落ち着くのね。ほほほ

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