大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
ナスの飛騨方言 |
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私:ナス茄子はナス科の一年草。インド原産だが、重要な果菜として日本でも古来から栽培されている。飛騨方言は、なすび。 君:なす・なすび、両語にどれだけの違いがあるというの?どちらでも通じるわよ。差なんてないわ。 私:その通りといいたい。が然し、どうかな。僕は道楽でこのサイト、早い話が言葉遊び、をやっているが、今のご発言について正しくは、両語にほとんど差は無い、とか、実際上は差は無い、などに言い改めになったらどうですか。 君:そういう言い方を、言葉尻を捉える、というのよ。 私:幾つか質問させていただこう。両語は意味は同じだが音韻が違う。つまり異音同意語。どちらが古いか? 君:三拍が二拍になったに決まっているじゃないの。古いのは、なすび、よ。 私:うん、それは概ね正しいね。ところが、ナスの漢名は茄子。或いは茄のひともじ。つまりは天平時代あたりに日本に伝来したころは、おそらく、ナス、と呼ばれていたに違いない。現に天平六年の造仏所作物帳に「茄子壱拾陸斛陸斗玖升」、つまり。ナス16石6斗9升、と書かれている。他にも記載が多い。 君:度量衡ね。なるほどね、まずは中国から、ナス茄子という言葉が伝わったという事がよくわかるわ。 私:ははは、これも正しくは茄子という漢字が伝わった、というのが正しい記載かな。中国の呼び方を日本流に発音すると、なす、という音韻になったという事でしょう。万葉仮名、上代特殊仮名遣いの世界の事を考えていると、あっという間に時間が過ぎていく。それは置いておいて、ここでひとつ、困った問題が生じた。はて、なんでしょう。ヒントは日本語の最小語条件。 君:ほほほ、わかるわよ。日本語は二拍の倍数という仮説ね。二拍の言葉は古代からの重要単語が占めていて、例えば、やま・かは。なす、とて例外ではないわ。同音異義語が多すぎるのが今も古代も変わらぬ日本語の弱点。従って古代に、あっという間に、なす、は、なすび、と呼ばれるようになった、という事じゃないかしら。 私:その通りだ。続いての時代には那須比が出てくる。つまりはこれは中央での変化。勝手な想像だが、平安時代あたりは全国津々浦々で、なすび、だったんじゃないかな。日本語ロマンと申しましょうか、飛騨方言ロマンと申しましょうか。やっと方言学の世界にたどり着いたが、なす、の方言量は極めて少ない。二十個程度。そのなかでも、なすび、は最大派閥で全国共通方言になっている。残りは、接頭語+ナス、あるいは、くろ黒+接尾語、この2パターンに分かれる。方言学的にもう一言、なす、は東日本に多く、なすび、は西日本に多い。若干の東西対立がみられる。飛騨は西側といったところか。 君:なるほど、たかが、なすという言葉。されど、なす、という言葉 私:さてさて、時は流れ、室町時代。宮中に言葉の変化が起きる。 君:室町時代の宮中?ははあ、女房詞ね。 私:その通り。御湯殿上日記・文明15(足利義政の時代)の記載に、なす、の記載がある。このころから、なすび改め、なす、と再び呼ばれるようになったようだ。つまりは室町時代に先祖返りした言葉なんだ。 君:なすび、の響きはあまり良くなかったのね。 私:それはとてもいい質問だ。なす、も、なすび、も本来の果菜の意味以外に幾つもの違った意味で用いられ続けている。それが国語の歴史。 君:ええ、わかるわよ。 私:いい意味で使う事はほとんど無いね。このおたんこなす!とかね。スリの隠語としても有名。巾着袋、つまりは昔の財布、この形が茄子に似ているところから来ていてるに違いない。 君:隠語は使わないに越したことかないわね。ほほほ |
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