大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

〜やに・〜やにか(2)

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私:昨晩は飛騨方言文末詞「やに(か)」についお書きした。ここ
君:えーっ、やめてよ。昨日の討論で十分じゃないの。更に話す事なんてないわよ。
私:ふふふ
君:えっ?何かとんでもない事に気づいたのかしら。
私:そう。気づいた。然も二点。昨晩の話に戻るが、「やに(か)」は共通語では「じゃない(か)」、従って飛騨方言の「に」は共通語の「ない」、つまりは★二重母音の短母音化、この考えは変わらない。
君:いいから、その新発見の二点とやらについて簡単にひと言で説明してね。
私:はいはい。それじゃ早速だが、共通語でも「じゃ」は使うよね。
君:ほほほ、親父ギャグ。早速に使ったじゃない。おばんギャグ。
私:そう。共通語にも「じゃ」がある。これの語源は「では」、つまり格助詞「で」+係助詞「は」。また格助詞「で」の語源というものがあって「にて」、これも二つの助詞「に」「て」の接合した新たなる助詞だ。
君:なるほど。共通語「じゃ」は元をただせば「にては」だったというわけね。
私:その通り。「それじゃ早速」は「それにては早速」という事。「使ったじゃない」は「使ひたにてはあらず」の口語表現というわけだ。
君:なるほどわかったわ。指定の助動詞「だ・じゃ」で飛騨は近畿方言に属して「じゃ(現代は「や」)」の地方だけれど、こちらの「じゃ」の語源は「であり」だものね。
私:その通り。飛騨方言の指定の助動詞「じゃ」は終止形で、語源は「であり」。その一方、共通語の「じゃ」は★★複合助詞「にては」の短呼化。つまりは飛騨方言と共通語では全く別の語源である事に僕は気づいてしまった。
君:どうやって気づいたのかしら。
私:今までずうっとそうだったが、突然に気づくんだ。パターンが二つあって、朝の目覚めの時に気づく事がある。これは夢に出て来たわけではないが、寝ていて無意識に一晩中、考えていた結果かもしれない。
君:ほほほ、もうひとつのパターンは?
私:ほぼ毎日の日課として日中に二時間ばかり散歩をしている。近くに「可児市やすらぎの森」という市民公園があって、僕にとっては大切な思索の道。方言ばかりを考えて歩くのではない。数十のテーマについて順に考えながら散歩している。
君:そんな中、突然に気づく事があるのね。
私:その通り。
君:あなたが気づいた一つ目、「じゃ」という音韻は飛騨方言では「であり在」が語源、共通語では「にては於」が語源という事はわかったわ。もう一つ気づいた事は?
私:「ない」という音韻についてだ。これにアクセント核があるかないかで、これまた二つの全く違った意味になる事に気づいた。アクセント核がある場合は否定の形ク「ない無」、文語では「なし」。
君:もうひとつの「ない」と言えば?
私:実はこれには複数ある。ひとつは助動詞「ない」で念押しの意味。ところがアクセント核がある場合もあり「二度と来ない」とか「後悔しない」とか、こうなってくると途端に否定の意味になるんだ。
君:つまりは形クであれ、助動詞であれ、★★★「な」にアクセント核があれば否定の意味、無ければ念押しの意味ね。
私:その通り。昨晩は念押しの意味は否定の否定、つまりは反語かとも思っていたが、そうでもない、ってなところかな。ここで飛騨方言の二重母音の短母音化の問題がからんでくる。ルールは実に簡単だ。否定の意味では短母音化せず「ない」のままであり、当然ながら「な」にアクセント核がある、という事。たったこれだけだ。
君:つまりは念押しの意味では二重母音の短母音化が生ずる事があり、然も絶対にアクセント核は生じない、という意味ね。
私:そう。以上から更にわかる事もある。飛騨方言文末詞「やに(か)」の正体は「にてはないか」なのだ。正体は指定の助動詞「や」では無い、という事なんだよ。
君:正にコロンブスの卵だわ。知ってしまえば、どうって事ないお話ね。
私:そう。理屈は簡単、日本語話者ならば誰でも理解できる。
君:でも外国人には少し難しい話かもしれないわね。
私:一般論としてはね。でもドナルドキーン氏のように米国人でも源氏物語の超一級研究者もいらっしゃるし。尤も氏は既に日本国籍を取得しておられる。
君:総括をお願いね。
私:飛騨方言「やにか」の語源は「じゃない!」という現代語の驚嘆・念押しの言い回しの単なる音韻変化と捉える解釈が正しい。飛騨方言でも否定の意味で用いられる「ない」が単母音化「に」になる事は決してない。つまりは「にてはならずか」と考えて反語の表現というのは間違い。昨日の原稿の誤謬を正したい。思い付いたらすぐ書く。たまには間違える事もある。許したまえ。
君:なるほど、スッキリね。
私:ふふふ、ところがですね、共通語には接尾語「ない」というのがあって、例えば、せつない・はしたない・せわしない、等々。これを話し出すと、またまた長い話になるし、議論がこんがらがってくるぞ。がはは、国語は楽しいね。
君:ほほほ、そこまで取り上げなくてもえんやにか(=いいじゃないかしら)。

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