大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法

伸びる・伸べる

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私:表題だが、どう思う。孫の保育園がコロナで閉鎖、我が家に避難してきた。方言どころではないので今夜はやめようかと思ったが、時間というものは何とか工夫して作るもの。数十分の休憩時間だ。
君:無理して書き続ける事ないわよ。
私:まあ、生きている証(あかし)というか。時間が無い、急ごう。
君:「ノベル」の音韻は共通語では「延べる」だわね。
私:その辺から。和語の古語動詞としては「のぶ」があったんだ。漢字は伸・延・展・舒。
君:舒の説明が要るわね。
私:音ジョ・ショ、訓のべる・のばす・ゆるやか。舒べる。
君:上古では自動詞「のぶ」が上二段で他動詞「のぶ」が下二段よね。
私:そう。上古で自他対は自動詞が四段、他動詞が下二段だが、例えば「入る/切る/垂る/焼く」、「のぶ」は上二・下二の対だ。
君:意味が大きく二つ、陳述する・引き延ばす、だけれど、まあ、本質的な差異では無いわね。
私:だろうな。御餅を伸ばして切って角餅にする事、つまり引き延ばす事と、皆の前で意見を述べる・つまりは話者の言葉がその場全体に行き渡る事は、何かが広がっていくという意味では同じ事だ。
君:でも、餅を延ばす事と陳述する事は明らかに異なる内容なので、中古に活用が変わって現代に至るというわけね。
私:まあ、そんなところだね。餅を延ばすという意味では「伸びる・伸ばす」の自他対になり、陳述するという意味では「述べる」のみの他動詞となった。
君:ちょっと待って。論理の破綻。「述べる」に対応する自動詞が存在しないのは何故?ほほほ
私:おっと、そう来たか。確かにおかしい。待てよ。・・わかった。他ハ下二「のぶ」、つまり他動詞から他ラ下一「述べる」が派生したというわけか。
君:その通りね。自ハ上ニ「のぶ」は現代語自ラ上一「伸びる」になり、他ハ下ニ「のぶ」は二つに分かれたのよ。現代語・他サ五(他動詞サ行五段)「伸ばす」にもなったし、他ラ下一「述べる」にもなったというのが日本語のからくり。
私:それが飛騨方言では、よりによって他ラ下一「伸べる」になっていて、「述べる」と紛らわしいという訳だね。
君:確かに紛らわしいけれど、会話というものは文脈が必ずあるので意味の混同は起きないと思うわ。
私:それでは議論が元に戻ってしまう。他ハ下ニ「のぶ」はどうして二つに分かれたのか、という命題だ。
君:うーむ、わからないわ。誤れる回帰かな。
私:ははは、今夜のオチは僕が言おう。
君:ええ、どうぞ。
私:・・誤れる回帰、それを述べちゃ・・おしまいだ。

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