大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法

すったて

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私:別稿・ラ行五段仮定形(雨が降ったら)に、荘川(岐阜県白川郷)では「雨が降ったら」という事を紹介した。
君:なるほど、それが「すったて」と関係があるのね?
私:その通り。白川郷には「すったて」という語彙がある。「すったて」ってどんな意味?
君:わかるわけないわ。初めて聞く言葉よ。
私:ずばり、答えだが「すりたて・擦立」の促音便。「たて」は連用形に接続する接尾語。例、ペンキ塗りたて。
君:なるほど。ラ行五段動詞「擦る」の連用形ね。こちらは共通語・標準語で「擦りたて」だけれど、白川郷では促音便になって「すったて」なのね。
私:まさにその通り。
君:飛騨は広い。その面積は岐阜県の半分、高山市の面積は全国一、つまりは飛騨の端と端では語彙が異なってもおかしくないわね。
私:うん、その点が大変に重要。村ごとに語彙が違う、といってもいい。但し、飛騨の国全体としてはアクセント・音韻は同じだ。多少の差はあるだろうが、無視してよい。
君:ラ行動詞と言えば、例えば「刈る」。これは「かったて」にはならないのかしら。
私:ならないね。というか「すったて」は名詞だ。動詞とは言い難い。但し原義は「すりたて」。
君:何の名詞かしら。
私:知る人ぞ知る、白川郷の郷土料理「すったて汁」だ。
君:聞いた事ないわね。味わった事があるの?
私:ああ、今の時期は白川郷は紅葉のベストシーズンだ。なにせ白山国立公園、岐阜県の三大紅葉名所が白川郷・上宝・御岳、三者の共通項は国立公園。紅葉が綺麗なのは当然だが、太古からの自然、スケール・格が違う。三つのどれをとっても日本一といってよいと思う。という事で昨日は白川郷に一泊し、「すったて汁」を味わってきた。ここでしかない料理。皆様もぜひ。
君:2014に全国鍋大会総合優勝というネット記事があるわよ。・・白川郷鍋食い隊(大野郡白川村)が考案した「白川郷飛騨牛すったて鍋」が1月26日、埼玉県和光市で開催された日本最大級の鍋料理コンテスト「ニッポン全国鍋合戦」で優勝に輝いた。主催は和光市商工会・・若しかして歴史の無い創作料理かしら。そもそもどんな料理でどんな味?
私:列記とした伝統ある郷土料理だ。グルメ記事は例えばここ。大豆の擦りたての汁。どぶろくのような味と色だ。本日の方言学、ラ行五段「擦る」連用形が促音便になるのは全国広しと言えども白川郷だけ。白川郷でラ行五段動詞が促音便になるのは「擦る」だけ。その用法は「すったて」に限る。
君:ほほほ、なるほど。だから「すったて」は最早、動詞ではなく名詞ね。しかも固有名詞。
私:うん。要は日本語では「掘った芋」というし「堀りたての芋」とも言うけれど、「ほったて芋」とは言わないね。ただし「掘っ立て小屋」とは言う。明治からの近代語。初恋(1889)〈嵯峨之屋御室〉「板屋根をさしかけたほったて小屋」。古語としては「ほったてじり帆立尻」、尻を浮かせて落ち着かぬ様子。俳風末摘花3(安永5 (1776))。
君:なるほどね。
私:ところで、掘った芋、いじるな。
君:何の事?
私:What time is it now ?
君:Really? 無理やり? ところで、すりたては英語で just off the press(印刷仕立て)、freshly ground (すったて) だわよ。ほほほ

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