大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

ハ行四段動詞・つらふ

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佐七:今日は久々に俚言(りげん)の発見話です。ゲストは同郷で同世代の典江さんです。
典江:出演はありがたいのですが、表題は古典のお話でしょうか。むしろ、佐七さんは奥様と討論なさったほうが。
佐七:申し訳ございません。なにせ俚言、つまりはあなたのように土地の人にしか通じない言葉ですから。女房とでは面白くもなんともないのです。
典江:ほほほ、つらふ、といわれても。
佐七:失礼。ハ行転呼音、つまりは古くは川・かは、を、かわ、というようにハ行をワ行で発音する事ですが、つらう、という動詞を使いませんか。
典江:使いません。例文がでるといいわ。しかもとびっきり面白い例文で。
佐七:おっ、ありがたきお言葉。では早速。
1.典江が昇をつれてきた。
2.典江と昇がつらってきた。
この例文でピーンときますでしょう。
典江:・・つらってきた、が飛騨方言だわ!
佐七:ふふふ、飛騨方言です。連用形促音便だから、つらって。だから終止形は、つらう、ですね。古語辞典をあれこれ調べてみましたが記載されていませんでした。おそらく俚言です。飛騨が誇る言語文化なのです。では意味の違いを国民の皆様にお教えくださいませ、 Mrs. Norie.
典江:ええ、
1.Norie took Noboru (to the party).
2.Norie and Noboru joined the party.
つれる、は共通語の他動詞です。その一方、つらう、は飛騨方言の自動詞ですよね。
佐七:おっしゃる通り、ですから言葉が少し訛ったのか、ではありません。つれる・つらう、は全く別の動詞です。たまたま発音が似ているだけなのです。
典江:うーむ、脱帽。でも、つらう、は俚言と言われましたが、本当に飛騨以外では話されていないのでしょうか。
佐七:ええ、おそらく。手元のあらゆる資料をみた限りは。おそらくは誰も知らない事でしょう。今日、このサイトをクリックした人だけが幸せな気分になれるのです。
典江:ふーむ、俚言となりますと・・私が表題でピンと来なかったのは、やはり、連用形促音便・つらって、しか私の頭にないからなのでしょうね。
佐七:ははは、典江さん、それは思い過ごしですよ。この動詞には実は連用形しか無いのでしょう。俚言である以上、あれこれ内省、つまり思考実験するしかないのですが、
未然:典江と昇はつらわにゃだしかん
連用:
終止:典江と昇はパーティにつらう
連体:パーティにつらう典江と昇
仮定:典江と昇がパーティにつらゃあ楽しいぞ
命令:典江と昇はパーティにつらえよ
こんな飛騨方言ってありますかね。
典江:ほほほ、不自然な言い回しですね。例え活用はかろうじて合格でも日常会話には出てこないでしょうね。あらっ!だから、飛騨方言には実際は、連用形促音便・つらって、しか存在しないのですよね。
佐七:ええ勿論。ですから、こうなってくると、つらって、というのは動詞というよりは実は副詞句なんですよ。トゥギャザー、っていう意味なんやさあ。共に、同伴で、連れ立って、連れ添って、などの訳が適当でしょうね。
典江:なあるほど。 adverb つらって(=together) in English.ほほほ、面白いお話。ありがとうえな。
佐七:では落ち、というか締めくくりは・・コブクロで。ネットに歌詞がありました。http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=B07837 永遠にともに・作詞作曲小渕健太郎。著作権には触れないと思いますので、佐七得意の飛騨方言訳を
つらって歩き/つらって探し/つらって笑い/つらって誓い
つらって感じ/つらって選び/つらって泣き/つらって背負い
つらって抱き/つらって迷い/つらって築き/つらって願い
これを促音便で歌う事です。ウ音便にならないように。そうなると、・・辛うて、に聞こえちゃいますから。夫婦というものはそれではいけない。
典江:たった一言のことば、つらう、ですが佐七さんがどれだけいとしく感じていらっしゃるのか、わかります。落ちもいいわ。でも落ちは実は佐七さんが書く。・・実は平凡な落ち。

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