大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

びい(女の子)

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私:さあ、今日も楽しい語源のお話だ。
妻:「びい」って飛騨方言で女児の意味ね。
私:ああ、そうだ。成人女性や老婆には用いない。飛騨方言というより、全国各地の方言だ。小学館日本方言大辞典には同語およびその派生語について、驚かないでね、三百語ほど記載されている。華麗なる語彙の世界だ。
妻:可愛らしいから、美、あたりが語源かしら。
私:僕はあなたの名前には最大限の尊敬の意を示したい。少し残念な話だが、実は語源は「ひ婢」(はしため)だ。古語辞典にある。
妻:見慣れない漢字だけど。
私:「ぬひ奴婢」という言葉がある。男の奴隷が奴で、女の奴隷が婢、奴婢とは律令時代における賤民身分で、官有か私有かによって「くぬひ公奴婢」「しぬひ私奴婢」の別があったが、いずれにせよ社会的には最下層の人々を示す言葉があった。室町時代には「ぬひ」から「ぬび」の音韻変化があった。この時代から女児をさげすんで「び」と呼んだのだろう。男の子が生まれれば大喜びだが、女の子が生まれたら「び」ってなところだったのだろうね。
妻:よく調べたわね。推論にも共感できるわ。
私:でも本当に心が救われる事だけが一つある。
妻:えっ、心が救われる?うーん、わかったわ。昔は人をさげすむ悪い言葉だったのに、今ではお嬢ちゃんの意味で、とても優しい言葉に様変わりしたからでしょ。
私:まさにその通り。これはね、方言学的には珍しい事だね。幾世紀もの間に言葉は徐々に値打ちを下げていくのが普通なんだ。敬意逓減の法則という。若しかしてと思って敬意逓増の法則という学術語がないか、先ほど来、片っ端から本やらネットを調べたが見つからない。若しかして私が初めての提唱者かな。国語学の専門家の目にこの記事が留まって炎上して欲しい。
妻:「ていぞう」逓増という言葉自体、普段、お目にかからないわね。でも逓増保険、というのがあるわよ。
私:すまぬ。家の財政は君に任せきりで。それにしても「びい」は逓増の法則だが、他の言葉では、うーん、思い浮かばない。
妻:ほほほ、つまりは敬意逓減の法則しかないのよ。唯一の例外が「びい」。例外は法則とは言わないわ。
私:うーん、やられた。でもやられっぱなしで身を引く僕じゃないぞ。こんな問題はどうだ。女性の事をウーマンという。どうして女なのにマンだとおもう?
妻:なるほどね。あなた若しかして中一の時にそれをつきとめたの?!
私:ははは、想像に任せるよ。マンは元々が human つまり、男女問わず人間という意味だ。そしてウーマンは英語の古語 wife + man でウーマンになったのだよ。
妻:まさか子供を産むのに「産まん」とは何故かな、なんてまず最初に考えたのでしょ。
私:まあね、語彙の研究は高校から、本格的にやりだしたのは大学の教養部で Oxford Websters 英英が座右になってからだね。ついでだ、花婿、これはどうだ。「むこどの」が女偏、おかしいと思わないかい。
妻:確かに変ね。なにかヒントは?
私:ははは、ヒントじゃなくて答えその ものだが、旧字体と新字体の違いという事。戦後に内閣が新字体を作成、それまでは武士の「士」編だったのさ。それをなんでまた女編なんかにしやがったのだい。えい、憎たらしい。偏旁冠脚、つまり意味の編と読みの旁。漢字の基本で、小学生でも知っているぞ。
妻:ほほほ、じゃああなたに代わって国語学の先生がたのお目に留まってこの記事が炎上するといいわね。

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