大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

でかい(=大きい)

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私:「でかい」と言えば「大きい」の俗語表現、というのが国民一般の認識だと思うが、当サイトのスタンスは、江戸時代の飛騨方言を著した「飛州志」に「でかい(=大きい」が記載されている事を根拠として、「でかい」が江戸時代からの飛騨方言であり、江戸時代に中央経由で全国に広まったのではという考えだが。この突拍子もない考えを思い付いたきっかけは井上史雄著「日本語ウオッチング」岩波新書。同書に、東海地方限定で「どえらい(とても)」という副詞がある、との一節があり、ピンときた。
君:もう少し具体的にお願いね。
私:うん。「えらい」は「疲れる」という意味の古語だが、これに強調の意味で「ど」が付けば「どえらい」になる。「でかい」だが、語源としては「どえらい」に同じく形ク「いかし厳」に「ど」が付いた言葉「どいかし」に違いない。これが飛騨方言では一早く母音交替・連母音融合・短呼化により「でかし」、そして口語「でかい」になったと考えたのだけどね。
君:なるほど、十分に有り得るわね。
私:国研の『日本言語地図』(1966年/1974年刊)だが、「大きい」についてはここ。なかなか示唆に富む図だね。流石、飛騨を中心として本州の真ん中に「でかい」が居座っていて、東北と関西が「おおきな」、四国と九州には「ふとい・ふとか」が居座っている。またも山口県あたりに「でかい」の原型たる「いかい」が残存している事も見逃せない。
君:なんだか戦国時代の群雄割拠のようだわよ。
私:確かにそうだね。近畿全体を制覇し中国にも食い込むどころか名古屋まで浸食している「おおき」の勢力はあなどれないが、何といっても本州中央を制している「でかい」が日本で最大の勢力だと思う。首都圏はやや混戦模様だが「でかい」のほうが「おおき」を圧していると思う。
君:北陸が完全に「でかい」の地方だから、案外、「でかい」は金沢が発祥じゃないかしら。
私:いや、飛州志の存在は大きい。著者・長谷川忠崇は飛州郡代、つまりは江戸時代のスーパーエリート官僚、つまり知識人。彼が飛騨に出張し、「でかい」という方言にびっくりしたという厳然たる事実がある。
君:つまりは飛騨から金沢へ伝わった可能性すらあるのかしら。
私:まあね。
君:山口県に「いかい」が残るのは周防方言に「ど」という接頭語が無かったために、古語がそのまま残ったのだわね。
私:勿論だ。そして「いかい」の音韻の方言は山口県以外に全国各地の方言に各種の意味に変じて残っている。これも興味ある事だ。飛騨方言、美濃方言にもある。つまりは岐阜県全域に「いかい」そして「でかい」がある。
君:意味がとてつもなく変わってしまったのかしら。
私:いや、それがそうでもなく。全国にみられる方言「いかい」の意味は地域名は割愛させていただくが「大きい・立派・多い・甚だしい・威厳がある」等々。つまりは基本的には「いかし厳」の意味に近い。
君:土田吉左衛門「飛騨のことば」にも「いかい」はあるのね。
私:ああ。「庭にいかい(大きな)木を植えた」「いかい(大変な)事」の文例がある。昭和まで飛騨では「いかい・でかい」両語があったようだ。
君:地図に戻るけど、「どでかい」は笑っちゃうわね。
私:そう。「でかい」が元々「ど・いかし」だったところへ、「でかい」ではすぐに満足できずにもう一度「ど」をつけて「どでかい」が出来た。これでも飽き足らなくると将来は「超どでかい」とか「滅茶苦茶どでかい」になるんだろう。敬意逓減の法則ならぬインパクト逓減の法則だね。(@_@; 汗
君:ほほほ、有り得るわね。インパクト逓減の法則は佐七の特許かしら。ところで、少し気になる事があるのだけれど。
私:何だい。
君:福島県にだけ「ずない」があるわね。南西諸島の言葉「まぎ」は遥か昔の日琉祖語からでしょうけど、本土方言「ずない」の語源が気になるわ。
私:ははは、そんな事か。勿論、古語だよ。形ク「づなし図無」。中世語。角川古語大辞典全五巻には記載がある。文例は漢書列伝抄。「はうづ方図がなし」から来た言葉だ。
君:なるほどね。さすが京大と角川古語大辞典ね.野方図とルーツが同じかしら。
私:地雷を踏まないでね。近世語「のはうず野方図」は野風俗の訛り(上方語源辞典)。
君:あら、そうなの。
私:「づなし」は日葡辞書にもある。Zzunai ずない。意味は、大きくて並外れた。
君:あなた、会津方言の解析もできるのね。そして今夜も方言の神様に感謝ね。
私:うん、どれだけ感謝してもしきれない。つまりは僕の興味も最近じゃ全国を手当たり次第だ。なにせ旅行が趣味なのでね。福島県は会津方言と太平洋側の浜通り方言、両者に挟み撃ちされた中通り方言、そして西南部の桧枝岐(ひのえまた)方言は非東北方言的、以上、四つの方言から成る地方だ。結構、面白いよ。
君:まさかオートバイで。
私:それはご想像に任せます。
君:ほほほ、奥様と二人のお車での旅行なのよね。奥様はせっせと中日新聞の山田先生の記事の切り抜きをなさったり。お優しいのね。
私:恋女房です。
君:愛妻家なのね。ほほほ、惚れたほうが負けよ。

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