大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

ひねくましい

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飛騨方言「ひねくましい(形)」ですが、土田吉左衛門「飛騨のことば」の記述は
1.年齢より老けて見える事。年よりじみている。(苦労すると見えて−顔をしとる)。
2.大人びている。(あの子は−。)
という事のようてす。いい意味にも、悪い意味にも使われるようですね。私自身、使った記憶や聞いた記憶がありません。上宝村誌に同根の言葉で「ひねくらしい」があるようです。ネット情報と言えば、ウィキペディア「飛騨弁」の項目に「ひねくましい」の記載がありました。更には、そのコピペと思しきブログ「飛騨高山ブログ。」の情報もありましたが、a matter of netiquette, or rather, of a copy right violation, is'nt it? 、出典を記載すべきでしょうね。

早速に「ひねくましい」の語源ですが、ずばり、岩波古語の記載ですが、
ひね【古・陳】古臭い事。ひねる(自ナ下一)《名詞ヒネの動詞化した形》古臭くなる。年を経る。
実は圧巻が旺文社古語でした。
ひね【陳・古】(名)前年以前に収穫した穀物。旧穀。
また三省堂新明解古語でも
ひね【晩稲】(名)おくての稲の称《和名抄》。古くなった物事。
という事で。新しい米ではなく、昨年までの古い米の事を「ひね」と呼んでしたようです。岩波古語にはもう少し深堀りして記載して欲しかったですね。

さて、お察し良いお方には書くまでもない事かもしれませんが。「ひね」は和語に違いありません。更には「P音考」の理論により古代には「ピネ pi-ne」と発音されていたのでしょう、上代にはやがて[ひね]となった言葉に違いありません。更にはこの言葉をもっと深堀りも可能でしょう。つまりは「ひね or pi-ne」は、おそらくは「ヒイナ or pi-i-na」の転じゃないでしょうかねぇ。つまりは「ヒ・干」+「イナ・稲」が語源ではないでしょうか。実は「ひねくましい」は飛騨俚言で、全国のどこからもネット発信がありません。今回、と申しますが、つい先ほど思いついた「ヒイナ」【干稲 and not 晩稲】説ですが、世界発の情報発信の可能性無きにしも非ず。ただし、若し間違っていたら・・ごめんね。この駄文を是非、国語学の専門家にご批判いただけないかな、と思っています。

続いてですが、古語辞典を用いた語源探しは以上にとどまりません。必然的に目に留まるのが「ひねひねし(形シク)」です。これは以上の三つの古語辞典に記載があり、古く干からびていること、盛りが過ぎていること、という事で、例文が三辞典とも万葉集16/3848 で「あな−し、我が恋ふらくは」という事でした。、、、ただし、これには思わず汗、というか、目が点、というか、やれやれですね。・・確かに、・・若い女性、例えば大学を卒業なさったばかりの新社会人、要は若い独身女性といえばはち切れんばかりの若さで人生で一番に光り輝いていらっしゃるのでしょうが、世の中にはめでたく定年をお迎えの才女もいらっしゃいましょう、若くして輝いている女性はいつまでも輝き続ける、つまりは年齢は関係ありません。女性を年齢を重ねただけの理由で「あなひねひねし」とは、さては詠み人知らずか、全世界の女性を敵に回しておしまいのようですね。

語幹部「ヒネ」の事を書いていてもきりがありません。次の議論に入りましょう。書くまでもない事ですが「ひねくましい」とは「ひね」+「くましい」という複合語です。ですから「くましい」っていう形容詞ってあるのでしょうかね。これに関しては上記の三辞典に「くまぐまし(隈隈)」(形シク)があり、意味は「隠し立てが多い、心に秘密があるようだ。」という事のようです。つまりは女性を見て「ああ、なんて年増なんだ。やはり女性は若いほうがいいな」などとお考えの男性がつぶやきになる言葉という事なんでしょうかねぇ。例え思っても言わぬが花。世界の女性を敵に回す必要はありません。

ところで土田辞書には「2.大人びている。」というほめ言葉の意味があるのですから、還暦を過ぎた女性が若し、私はまだ未熟だ、と感じておられるのなら、「ひねくましい」はたちまちに彼女への最大のほめ言葉になるのでしょう。垣内松三先生いわく、言外の意味を知れ、と。そして今日もまたあなたと私の不思議な古語辞典の世界。しゃみしゃっきり

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