大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
ひずがない |
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数日前に飛騨方言の検定アプリを紹介しましたが、場所は「飛騨っ子の方言」です。私自身が知らない言葉が多数、出題されて、なんと50点という惨憺たる結果だった事を正直にお伝えしました。私が知らなかった言葉のひとつが「ひず」でした。意味は「元気」です。従って「ひずがない」とは「元気が無い」という意味です。つまりは、この数日ですが、知らないし、第一に聞いた事も無い飛騨方言「ひず」の語源についてずうっと考えていました。そして、ふふふ、わかったのです。私は今、とても幸せな気持ちです。 お忙しい読者の皆さまへ、まずは結論を、「ひず」の語源は「いすか」という鳥の名前です。私は高校三年間、住英明先生(金沢文卒)、松崎充先生(国学院文卒)のお二人との素敵な出会いのおかげで古文を漢文同様に力をいれて学ぶ事が出来ました。お蔭さまで入試本番では、ほぼ満点でした。今でも感謝しています。ところで古文の重要単語のリストに出てくるわけで無し、実は「いすか」は今まで知りませんでした。ただしどの古語辞典にも記載されている事を知って、また現代語としてネット情報も多いようですし、つまりは野鳥マニアにはありふれた名前なのがもしれませんね。それでも手元の書・日本野鳥の会岐阜支部編「美濃飛騨・人と鳥・鳥の方言と民話」を隅々まで調べましたが、「いすか」の記載はありませんでした。況んや「いすかし」をや。 私が「ひずがない」の語源を探るために真っ先にあたったのは古語辞典です。実は、・・とても簡単な事でした。「ひすかし」「ひずかし」[形ナリ]が目に飛び込んで来たから、という事だったのです。意味は「心があれている・荒々しい」、読んだ瞬間に語源に違いないと直感しました。このあたりの心のアンテナは大変に重要です。そして、この形容動詞は「いすかし」と同根である事にも気づいてしまいました。更には「いすかし」の語源は「いすか」、つまりは学名 Loxia curvirostra、スズメ目アトリ科に分類される鳥類、という事だったのでした。 とても元気に活発に動き回る鳥の代名詞「いすか」は元気の代名詞となり、出来た言葉が「いすか」+「し」の形容動詞、つまりは、「ひずがない」は元来は「ひずが」+「ない」の意味です。決して名詞「ひず」+格助詞「が」+打消し「ない」の意味ではないのです。この辺りのセンスも重要です。つまりは「ひずが・元気」という体言の末尾の一モーラが脱落して「ひず・元気」という新たな体言が生まれたのでしょう。このあたりのセンスも大変に重要です。その後に「ひず」+格助詞「が」+打消し「ない」という近世語が生まれたのです。この現象を方言学では「誤れる回帰」といいます。つまりは無邪気な民衆、ずばり、方言が進化する原動力なのよ。私は今は亡き四人の祖父祖母を思い出します。・・皆が尋常小学校卒。そしていきなり社会人。おじいちゃーん、あばあちゃーん! さて「ひずがない」はどうも岐阜県に特有の方言のようですね。土田吉左衛門著・飛騨のことばにも「ひず」の記載があり、「元気、気力」とお書きになっているくらいですが肝心の語源の記載がありません。天下の土田先生も「いすか」の事はご存知なかったようですね。著書が後世の人間にあれこれ指摘される事は仕方のない事です。私の武器は座右の書「飛騨のことば」だけではありません。多くの方言学の学術書、そのまた多くはこの数年の間に出版されたものです。今後も方言学という日本人にとっての国語遺産についての書物は増え続けるでしょう。先人達のご業績は時に批判されるでしょう。学問に終わりはありません。 私の武器は書物に限りません。ネット検索がひとつの楽しみです。毎日のように各地の方言情報が発信されます。最近の傾向はユーチューブ等の動画情報・つまりは音声情報です。また発信者の多くの皆さまが若者でしょう。きりがないので面白いのひとつご紹介しましょう。みやびねっとにあります方言のひとつが「しずない」、意味は「やかましい、騒がしい、騒々しい」がありました。「しずない」と「ひずがない」は同根でしょうね。つまりは「しずない」の語源は「いすか」でしょうね。"みやぎねっと"様がその事を意識なさったのかはわかりませんが、「しずない」の意味を「静かでない」とお書きにならなかったのは、ぶふっ、賢明でした。 駄文をいつもお読みくださって本当に感謝しています。まる二日ほど慎重に調べてきました。日葡辞書も調べました。ふふふ、Fisucaxina がありました。ひすかしな人、怒りっぽく荒々しい人、の意味です。つまりは「元気」の意味で使われるのは近世からですよね。私には確信に近いものがありますが、若し間違っていたら御免なさい。飛騨方言があなたと私をつなぐ不思議なご縁に免じて。 |
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