大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

かしきさ(=飯炊きババァ)

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私:飛騨方言「かしき(=炊飯)」は古語動詞他カ四「かしく炊」からきた言葉で、既に二編、記事を書いている。ここここ。今夜は語源辺りについてさらに深堀してみよう。
君:他ガ五「かしぐ」は確かに国語辞典はあるけれど、文語につき、日常会話では用いられないわよ。
私:そうだね。僕も他カ五(他動詞カ行五段)「かしく」が話されるのを聞いた覚えがない。ただし名詞、連用形「かしき」は戦前の人なら使うんじゃないかな。
君:「かしき」に接辞「さ」が付くと卑称になるのかしら。
私:一概にそうとも言えないね。飛騨方言では「郵便屋さ」などともいうし、他に「酒屋さ」「お菓子屋さ」等々。それはともかく、「かしく」に語源があるのでは、という事に先ほどは気づいてしまった。「こしき甑」から来ているのじゃないかな。現代のような炊飯形式はいつの時代からだったのだろう。古代にはお米の炊き方はひとつ、つまり「こしき甑」を用いて蒸す事だった。ただし、「こしく」という動詞は存在しない。万葉集の時代から存在していたのは「こしき」という名詞。これを用いる事を「かしく」と言っていたわけだから、古代にオ列からア列に母音交替が生じたのかも知れないね。
君:どこかに書いてあったのでしょ。
私:ははは、違う。つまりは古語辞典のどこにも「こしく」の記載は無い。「こしく」から「かしく」に音韻変化したのでは、というのは僕だけの古代語ロマンスだ。
君:ほほほ、支持するわよ。つまりはいかにもありそうな話。でも証拠が無いのが残念ね。
私:うん、残念だ。古語辞典の世界の話を続けよう。「かしきめ炊女」これは京都・平野神社の聖職にて四人が定員。角川古語大辞典にも記載がある。この言葉をなぞって「かしきをとこ」という言葉が生まれたが、飯炊き・水汲み・下男の一般名詞で擬古語(八犬伝3/21)。「かしきどの炊殿」、こちらは寝殿造りの台所、ないし神社で神饌(しんせん、神へのお供え)をかしぐ所。後代には「かしきや炊屋」の言葉も生まれる。
君:元々は古代には神聖な意味で用いられていたのよね。それにしても「かしきさ(=飯炊きババァ)」は無いわよ。
私:子供の時を思い出す。敬意逓減法則、ってのだよね。罪のない子供の言葉遊びだ。ところが先ほど「こしき・かしき」に気づいて、続いてはあれこれネットの文字情報を漁っていて大変な事に気づかされた。
君:どういう事?
私:嘘か誠か知らないが、女性が発信するSNS、ブログなどだ。夫から「飯炊きババァ」とか「洗濯ババァ」とか言われて離婚を決心したという怖い話。
君:それは当然と言えなくも無いわね。夫も妻にATMと言われたら切れるでしょ。
私:結婚以来、頑なに守っている事が二つある。
君:何?
私:ひとつには、実は一度も食事を用意した事が無い。先天的に能力が無い。家内に先立たれたら飢え死にするだけ。
君:朝、パンを焼く位は。
私:それすら無理。僕が出来る事はコーヒーを作る事だけ。皿洗いは少しやっている。
君:もうひとつは。
私:出されたものは全て食べる。残した事など一度も無い。米粒を残す事も絶対に無い。
君:それは良い事ね。愛情は胃袋から。ほほほ

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