大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

しんびき、の語源

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別稿に、しんびきする、を紹介しました。飛騨方言でもあまり使われない言葉だとは思いますが、それでも手元にある幾つかの飛騨方言資料には記載がありましたので、どうやら私の記憶違いではないようです。意味は、ひとつには、瓶から液体か垂れ落ちる事、もうひとつは、(人生をあれこれ)迷う事、です。語源が何か、少し考えてみましょうか。まずは事実の収集です。

★広辞苑第六版には、しんびき(長野県などで、灌漑用の溝)の記載がありました。
★https://www.ne.jp/asahi/x/dairin/japan/43_gihu/gihu_04.htm、のネット情報に岐阜方言として、しんびきする(迷う)、の記載がありました。おそらくは岐阜市の発信者のおかたでしょう。
★飛騨方言のバイブルとも言える土田吉左衛門辞書には、心曳きか、の解釈文

以上から、どうやら岐阜県全域あるいは長野県にまたがった方言の可能性がありそうです。

別のアプローチ、つまりは意味論から考えると、現代語から古語を引く辞典で、まよう、の古語を探ると、おもひまどふ思惑、さどふ惑、ここちまどふ心地惑、さまよふ彷徨、たどる辿、まどふ惑、まよふ迷、の記載しかありませんので、ここに語源を発見する事はできません。つまりは、瓶から液体か垂れ落ちる事が転じて(人生をあれこれ)迷う事の意味に派生した事は明らかでしょう。手元の標準語引き日本方言辞典(15万語)でも、まよう、に該当し語源につながる言葉は皆無でした。

し・ん・ひ・き、があれこれ音韻変化したとは考えにくいのでアクセント論から参りましょう。ちなみに、しんびき、は頭高アクセント●○○○です。しん+ひき、の複合語で頭高になっているのですから、二拍語・しん、で頭高の言葉を探せば、それが語源だろうと推察できます。アクセント辞典をみてみましょう。候補は、心、芯、臣、辛、信、真、新、伸、神、寝、親、進、深、です。しんい真意心意、しんか真価進化、しんき新規、しんきょ新居、しんこく神国、しんざん深山、しんし紳士真摯、しんしょ親書、しんしょく神職、しんせつ親切、しんそこ心底真底、しんど深度、しんねん新年信念、しんぴ神秘真皮、しんぶつ神仏、しんり心理真理、しんろ進路、以上の頭高複合語が見つかりましたので、真・新・神・深・親・心・進、以上の七つの二拍独立語でしかも頭高アクセントが候補者という事になります。忘れてならないのが岐阜県は東京式アクセントであり、アクセント辞典すなわちほどんど飛騨方言アクセントという事。

つまりは重要ポイントは飛騨方言で語源を探求するにはビシバシとアクセント論で攻めろ、という事。候補者の言葉を絞り込んで、再び意味論に戻りますが、瓶から液体か垂れ落ちる、という意味に一番近い言葉は、進、でしょうかねぇ。あるいは新。わたしゃ、心、ではないような気がするんですけどね。但し、迷う、という意味がある以上、心説にも一理あるのかもしれません。本日の考察では以上が限界です。一応の結論ですが、しんびき、とは畢竟、心が迷う事、女心なり。

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