大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

くさもち(草餅)

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私:この間はの語彙を書いたが、草餅でつまづいてしまった。
妻:あまり、大した事じゃない気がするけど。
私:今日、改めて調べなおしたら面白い事がわかった。古語辞典によって記載があったりなかったり、だったんだ。
妻:ほらごらんなさい。つまりは重要単語じゃないという事なのよ。
私:まあ、そうおっしゃらずに。大抵の国語辞典には草餅の記載がある。古語辞典で記載が無いのが岩波(補訂版)、そして記載が有るのが三省堂、大修館、旺文社。
妻:じゃあ記載は?
私:「くさもちのせっく草餅の節句」「くさもちひ草餅」の二個だ。我が家は草餅、土田辞書には草餅の記載は無い。
妻:つまり草餅は共通語だから飛騨方言ではない、という事なのよ。「くさもち」について日葡辞書、言海、民俗語彙もお調べになったのよね。
私:勿論だ。日葡で既に Cusamochi だった。旺文社が秀逸で草餅の節句は鶉衣(江戸)「くさもちひ」落窪1だから十世紀末。「ひ」が抜けたのが十一世紀以降と判明。ところが、ここで光るのが岩波古語だ。「もち餅」(名語記、初稿6巻本は文永5年(1268年)の記載がある。つまり「ひ」が抜けたのは十一世紀以降で文永5年以前という事が判明した。「くさもちひ」が「くさもち」になったのも同時期だろう。
妻:平安時代に「もちひ」「くさもちひ」で鎌倉時代に「もち」「くさもち」ね。年代が絞れてよかったわね。民俗語彙・草餅も沢山あったのね?
私:それがそうでもなくて、日本方言大辞典(小学館)にたったの15個だけだった。
あおみ・いろとり・いろとりもち・てんこ・どーきゅー・どてもち・ふーつぃもち・ふたもち・ふつぃむっつぃ・ふっだご・ふつのもち・ふつむち・ふつもち・ぶとうむっちー・ぶともち
以上だ。これを見て一目瞭然、或る傾向に誰もが気づくよね。
妻:ええ、勿論。「ふつ・」の系統の語彙が多いわね。あなた、とんでもない事に気づいたのでしょ。
私:勿論だ。「「ふつ・」は九州に集中「・むつぃ」は鹿児島・沖縄だ。本州四国には皆無だった。ついでに餅の内容・ヨモギについて全国の方言を調べた。全国に78個の方言があった。「ふた」「ふち」「ふつ」があり、九州に集中していた。
妻:古代に畿内、つまり中央でも「くさ・ふた」の音韻の変化が無かったのかしら。
私:ははは、冗談はよしてくれ。そんな事あるわけない。「くさ」は和語で千年以上ぶれていない。ただし熊襲が「くさ」の事を「ふた」と呼んでいたのかね、若しかして。
妻:ヨモギの古語ってないの?
私:望むところだ。8個もあるよ。
さしもぐさ・させもぐさ・させも指焼草・たはれぐさ戯草・つくろひぐさ繕草・もちぐさ餅草・やきくさ焼草・やいばぐさ

妻:あらら、多かった割にはどれもこれも各地の方言にならなかったのね、
私:「・くさ」+「もちひ」ですべて「くさもち」になってしまったようだ。
妻:どうして草餅の節句なのかしら。トリコロールのひし餅なのに。
私:その辺りも調べ始めたところだが別の機会に。元々は「じゃうし上巳」「じゃうしのはらえ上巳ノ祓」と言っていたんだよ。平安時代は中国の影響と陰陽道の時代だね。
妻:単純に考えると平安時代は草餅だけだったのだわ。調べてもくたびれ儲けね。

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