大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 近隣の方言 |
東西対立・指定の助動詞 |
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私:指定の助動詞と言えば「だ・じゃ(や)」、東京が「だ」で大阪が「や」である事は書かずもがな。中部地方はと言うと、これが微妙な問題になる。既報一、既報二も参考までに。 君:確かに中部地方は真っ二つ。岐阜県は「じゃ(や)」で名古屋は「だ」なのね。岐阜市は名古屋市の衛星都市で濃尾平野で同じ経済文化圏なのに不思議だわ。 私:僕は飛騨の高山「じゃ(や)」の出身だが、大学生以来ずうっと名古屋近辺だから「だ」の地域に住んで50年ほどになる。家内は生まれも育ちも名古屋「だ」。お互いが三十近くで結婚し名古屋で新婚生活をはじめ、ところが二人が四十を前にして岐阜県可児市に引っ越した。つまりは可児市に住んで三十年になる。ところで可児市は濃尾平野の市であり、「じゃ(や)」の地域。昨晩の夫婦の会話だが、家内が名古屋の友人にこういわれたそうだ。「Y子ちゃん(家内)も岐阜県に三十年も住むようになって言葉が美濃方言になっちゃったわね」 君:友人のお方が美濃方言とお感じになったのが指定の助動詞の使い方という訳ね。 私:要はそういう事。名古屋の人間は「や」は使わない。女性でも「だ」を使う。ご友人の方が違和感を御覚えになったのは、家内が名古屋の友人に対して「や」を使い始めた事。 君:岐阜市、可児市は濃尾平野なのに「や」、名古屋市こそ濃尾平野だけど「だ」という事ね。つまりは平野の真ん中に方言境界線がある、という事なのね。 私:その通り。木曽川がその境、と言いたいところだが、実は岐阜市は木曽川の右岸で、可児市と名古屋市は木曽川の左岸。だから木曽川を方言境界とするのはあまりにも強引、という事になる。やはり明治以前の行政区分、美濃の国・尾張の国、という国境が大きいと思う。 君:左七が「だ」を使う事はないの。生まれ育ちが「や」、大学生時代から四十前まで名古屋「だ」、そしてその後は高山「や」と同じ可児市「や」に住んでという事だけど。 私:無意識には「や」を使っているんじゃないかな。但し、ここで共通語・標準語問題というものを考慮しないといけないね。つまりは東京「だ」が共通語・標準語であり、岐阜・可児「や」は方言という意識。つまりは僕自身、無意識に標準語を話そうとするドライブがかかっているとも思う。内省実験の難しいところで、なにがなんだかわからなくなってしまう。家内のご友人のような、第三者の評価というのは客観的なので貴重なご意見だと思っている。でも、ちょいと考えればあるひとつの結論が導かれる。 君:どういう事? 私:結論は簡単だ。生まれも育ちも名古屋「だ」で、おまけに標準語「だ」でやってきた家内が三十七の歳に可児市に引っ越した。そして三十年たとうとしている。家内は「だ」から「や」に代わった。つまりは、可児市という言語環境の影響、と、人生の大半を一緒に過ごしてきた夫たる左七の影響、この二つだね。となると、左七も可児市に住んでからは名古屋の「だ」を忘れ、生まれ故郷・高山の「や」で話しているのだろうね。 君:編入者のお方がコミュニティに溶け込もうと努力して地域で話される方言をマスターなさるのは悪い事ではないわね。 私:うん。良い事だ。それに手っ取り早い方法は文末詞のマスターだ。 君:要は助動詞よね。 私:そう。 君:どうしよう。 |
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